<「栽培ゴンドラ装置」を独自開発>
折からの不況のなか、特に厳しいと言われる建設業界では近頃、異業種への進出・転換を図る企業が出始めている。屋根・外壁工事を手掛ける糸島市の「有限会社八起産業」もそのなかのひとつ。2009年、農業という新分野への進出に乗り出した。
同社は、新事業の柱として「栽培ゴンドラ装置」(特許2009 25816出願中)を開発した。これは、鉄製の回転可動式ゴンドラに土入りポットを並べ、ゆっくりと自動回転させながらスプリンクラーで均等に水を与えるハウス栽培や工場栽培向けの装置である。使用することで、作付面積は3~5倍になる。
まとまった農地がなくとも、ちょっとした資材置き場ほどの土地があれば十分。同社でも事務所わきにハウスを建ててベビーリーフやプチトマト、イチゴなどを試験的に栽培している。柔らかくて甘みのある無農薬・有機作物が育ち、立ったままで収穫作業ができるのも魅力だ。
「サラダの安定供給を目指す飲食店や、腰痛などに困っている高齢者の農家にも需要があります」と、考案した田中俊行・代表取締役社長は話す。「きっかけは正月明け、『このまま屋根工事だけに頼っていてはダメだ。何か新しいことをしよう』という決意からでした。ふと見渡して目に止まったのが、雨どい端材。栽培ポットに使えないか、とひらめいて製図を書き始め、紆余曲折をへて鉄製の栽培装置に行き着いたのです」。構想から2カ月で試作品を作り、改善を図りながら市農政課や大学の関係者らにも見てもらった。産官学連携の可能性も探りながら、社内の栽培実績データを積み重ね、モニター企業を募るところまで来ている。
<アイデアに込められた農業への想い>
田中社長は元来アイデアマン。以前も建築現場での非効率な屋根材上げ作業に悩み、やはり自ら「ロングハンガーやじろべえ」を考案した。ただし、今回の栽培装置については、農業へ寄せる想いがあった。
「私は佐賀のみかん農家の生まれでして、農業を学んだ時期もあるのですが不作のため立ち行かなくなり、家業を継ぐことができませんでした。そして今の会社で主に手掛ける屋根工事も、農業施設などが少なくない。やはり少しでも農業の発展に貢献したいという気持ちがあります」と、田中社長は栽培装置の着想に隠された想いを告白した。
試作品ができたばかりの頃は、「こんなの見たことがない」と、農家の知人の間で不評だった。しかし、装置を使用し栽培を始めてみると何度も様子を見に来るようになり、彼らの意識も変わってきたと感じている。
「異業種の人間ならではの視点で、今後も新商品や新サービスを提案できると思います。建設業界の技術や材料も、ふとしたことで全く違う分野に活かすことができるかもしれない。工夫しだいで効率化できる部分はまだまだあるし、そこに新しい事業が生まれる余地もあるはずです」。栽培ポットの土入れ器具や堆肥製造器まで手作りしてしまう、解決実践型の田中社長らしい説得力のある言葉だ。
<プロフィール>
田中 俊行(たなか としゆき)
1949年、佐賀県伊万里市生まれ。トラック運送業、瓦職人などを経て77年、「田中瓦工事」を設立。その後、95年に「有限会社八起産業」を設立。
<会社概要>
(有)八起産業
代表者:田中 俊行
所在地:福岡県糸島市曽根770-5
設 立:1995年
資本金:300万円
TEL:092-323-2729
URL:http://www.yaokisangyo.jp/
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