(社)福岡県土木組合連合会 理事長 古賀 義久 氏
現代社会では風水害に対してそのつど対策を施し、次なる災害に備えているのだが、時として自然は猛威を振るう。福岡においても、台風、水害、そして誰もが記憶に新しい西方沖地震があり、自然の大きなエネルギーの影響に晒されてきた。荒れ狂う嵐、水かさが増して苛酷な環境のなか、危険をおして早期の災害復興を行なっている自衛隊などの報道を誰もが目にしたこともあろう。地場が風水害に晒されているとき、懸命に復旧作業を行なっている業者のひとつに土木工事業者がある。日々、現場で培った技術をいかんなく発揮し、災害時の復興作業における影の立役者でもあるのだ。その土木工事業界の現状はどのようなものだろうか。
<公共工事の抑制の影響と業界の現状>
―福岡県土木組合連合会における現状について、お教えください。
古賀 土木工事業者は地場に直結し、まさに町の「土建屋さん」と親しまれてきましたが、厳しさが増す市場環境に晒されています。当組合の会員数は、ピーク時では740~750の会員数を誇っていましたが、現在では530にまで減少しています。とくに、ここ4~5年の間に、急速に減少傾向となっています。
―その原因は何でしょうか。
古賀 大きなものとして、公共工事の抑制策の影響が挙げられます。もともと土木工事業界は公共工事に依存している割合が多く、業者数が増加傾向にあったのです。民間受注は単価の厳しさから入り込めないうえに、収益面の改善に寄与しないこともあり、この業界は公共工事に特化してきたという経緯があります。過去、公共工事において、件数も金額もあり、既存の企業が運営できるような件数が発注されていたため、土木工事業界も今ほどは厳しくなかったのです。
それが、公共工事が減少傾向となったうえで、談合対策ということもあったのでしょう、入札方法の改変で一般競争入札の拡大や総合評価方式の採用が始まり、厳しさは増しました。
―業界を取り巻く現状はどうなりましたか。
古賀 福岡地区においても、極端なパイの縮小は企業間の過当競争を生む結果となりました。体力のない企業は、経営を維持するために、赤字を出して無理をしてでも仕事を取らなければ資金がまわらない業者が出てきたのです。
企業間の競争の激しさから、赤字経営を続けたがために経営が厳しくなり、低価格での入札を行なうことでさらに利益が取れない体質を生み出してしまう、という悪循環を生み出しました。一番ひどかった時期は約3年前で、もっとも底の状態だったと思います。過当競争の末に赤字体質への転落、それを補うためのさらなる低価格競争へと、デフレスパイラルのような負の悪循環を経験しました。
過去の労務費は約1万6,000円~1万7,000円だったのが、1万2,300円にまで下落しても、採算が合わない仕事になってきました。そのため、若い人の求人が難しくなってきました。もともと3Kと言われる業界だっただけに、収入も少ないと魅力を感じさせないように思います。さらに、出生数の減少も影響しているのか、工業高校や専門学校なども土木専門の学科の統廃合を行なっているとも聞かれますから、業界全体の高齢化に拍車がかかっているのも現実です。
<連合会ひいては業界全体の浮上のために>
―貴連合会の今後の取り組みをお聞かせ下さい。
古賀 変化した市況に対応し、今後の改善を図るため、当連合会では入札の最低価格の引き上げや現地での代理人の教育など、業界内の改善に取り組んでいます。地方自治体からは品質の確保とさらなる技術の向上をしてほしいと求められますが、このような状態だと、品質の維持ができない状態になると説明しています。そのため、入札価格の面においては、発注を行なう地方自治体と最低価格の引き上げを求めて粘り強い交渉を進めています。
交渉が功を奏し、いく分か最低価格の見直しを図ってもらいました。まだ充分とは言えませんが、現状を打破する呼び水となって欲しいものです。それと、地場業者への発注への考慮を再考していただきたいと考えています。連合会としては、今後も現状を確認して問題に対し取り組んでいきたいと思っています。
―土木工事業界の見通しは。
古賀 日本は世界的に見ても高い水準の建築技術を持っていますが、現在では、その高い技術や品質が保つことが厳しくなっています。現代社会に必須のインフラ整備に携わる土木工事業もその問題に直面しているのが事実です。
今、土木業界では職人さんの高い技術とコスト意識で成り立っています。これが次の世代に受け継がれなくなると、品質が保てません。そうしないためには、業界が特化している公共工事の見直しを再度行なっていただき、利益が取れる企業に転換を図りたいと思っています。そうすれば、若い人たちにとって魅力ある職場となり、雇用も維持できるでしょう。私たち土木業界も後世に技術を残す努力をしていきたいのです。
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