福岡仮設組合
当初、新興の仮設業者を中心に発足した福岡仮設組合。業界環境改善や職人の待遇改善に取り組むなかで徐々に活動の幅を広げ、当面の目標として、公共工事における足場工事の分離発注実現を掲げる。その底流にある思いは何か、これからの鳶(とび)職はどうあるべきか、同組合会長の齋藤裕氏((株)ヒロ建設代表)と篠崎德氏((有)篠崎組仮設工業代表)に話を聞いた。
<憎むべきは労働災害 現場の安全を守る役目>
―まずは、団体の概要などをお聞かせください。
齋藤 仮設業界は、経営基盤が脆弱な中小零細企業が多く、各社とも危機的な経営環境にさらされています。この状態では、職人の確保や資材の調達をますます困難にしますし、品質低下や労働災害を引き起こす要因にもなりかねません。労働災害の撲滅と経営の改善、仮設業界の地位向上のために知恵を出し合おうと立ち上げたのが福岡仮設組合です。現在では組合員も増え、仮設業に関する勉強会だけでなく社会福祉活動にも取り組んでいます。
―高所作業用の足場を提供するなど、「鳶職」といわれる業種ですね。
篠崎 建設は多くの人々の共同作業ですが、人が行なう作業である以上、そこには足場が必要です。足場の組み方が悪ければ、作業効率が落ち安全性も損なわれます。足場は最後には取り払ってしまうので、現場にモノを残すわけではありませんが、労働災害をなくすのに重要な役割を果たしています。「安全の要」、それが我々鳶職のプライドです。
―低単価の波は仮設業にも及んでいると。
篠崎 ここ10年で1.5割から2割ほど落ちています。時代の変遷で単価が落ちるのはやむをえませんが、あまりにも酷いと企業として人の教育に費やす費用が捻出できません。作業にもゆとりを欠き、それが労働災害を無くす障害になるのではと危惧しています。
齋藤 労基署やゼネコンさん側の安全に対する姿勢は年々厳しくなっています。当然、新たな費用が生じますが、現状では我々に対する一方通行の押しつけがほとんどです。施主さんやゼネコンさん、我々を含めて皆が広く負担すべきものだと思います。
低単価によって余裕のない作業環境になってしまうと、労働災害が増え、結果として安全に対するコストが跳ね上がります。我々の役目は、現場の安全を守ることです。だからこそゼネコンさんには、安全にかけるコストのことをもう一度考えて欲しいと思います。
<若者の受け皿に夢を持てる環境を>
―業界に若い人が入ってこないという話を聞きます。
篠崎 私自身、職人の育成と技術の継承ができればいいとの思いで会社を経営してきました。昔からこの業界には、道を踏み外しそうになった若者が流れてきます。「昔は俺もそうだった。仕事を覚えて立ち直ろうよ」と諭した少年は、今では立派な職人に育ってくれました。昨年からは保護司のお役目もいただいています。ですが、最近では「うちに来ないか?家族も守っていけるぞ」と誘うのをためらってしまいます。若者の受け皿という意味でも、この業界を守っていきたいのです。
―人材の流出も懸念されています。
齋藤 職人たちにしてみれば、先のことを考えれば考えるほど不安になるのでしょう。思慮深い人材、良い人材ほど業界を抜けていくのが残念でなりません。モチベーションを維持してもらうためにも、疲弊した国内だけでなく、東アジアも視野に入れた仕事の道筋をつけられないものかと模索しています。
―人材の質の底上げが必要になってきます。
齋藤 その点は、教育を怠ってきた我々も反省しなければなりません。昔は同じように「ガラが悪い」と言われていたパチンコ業界やタクシー業界ですが、今では素晴らしい接客をしてくれます。一番遅れているのは我々の業界ではないでしょうか。単価安で利益が取れず、従業員教育や福利厚生を十分にしてやれないということは、職人たちが新たな世界を知り、それをもとに人間性や技術を発展させる機会を閉ざしてしまうことを意味します。
経営者としての努力が足りないとの批判もあるでしょうが、業界の底上げにかけるコストを捻出できる環境に変えていかなければなりません。
篠崎 努力をするには夢が無ければなりませんし、それが人材育成や社会貢献に繋がっていきます。今は些細な夢すら持ちにくい状況ですが、福岡仮設組合の活動が若い職人たちの夢に繋がるならと思っています。
<分離発注の実現を目指す>
―望ましい環境を作る具体的な方策とは。
篠崎 仮設業は、工事現場のために足場を組むという性質上、下請というポジションを離れられないのですが、仕事の内容自体は徐々に進歩してきています。たとえば、以前は渡された図面に従って足場を組むだけでした。ですが、最近ではCADを導入して自ら図面を作成するなど、従来はゼネコンさんが手掛けていた範囲までフォローできるようになってきています。資格取得の奨励もしていますし、実務面と資格面で存在感を増すことで、単価の向上につなげていけるのではないでしょうか。
それと、これは私の夢であり組合の活動内容のひとつでもあるのですが、公共工事の仮設工事について分離発注を実現させたいと考えています。
―役所の側に分離発注をするだけのメリットがありますか。
齋藤 福岡仮設組合は、公共工事の仮設工事について分離発注ができないか、関係機関と折衝を続けています。篠崎社長のおっしゃるように、今では基礎資料さえそろえば仮設業者の側で図面から架設まで手掛けられるようになっています。
仮に分離発注が実現すれば、これまでの元請各社に監理料として支払われていた分の多くが不要になるため、発注価格を下げることができ、税の節約になります。単価の乱れも比較的少なく、我々も安心して安全体制の構築にお金をかけられます。何より、民間工事のモデルとなる公共工事で高い品質の安全性が確保されれば、多くの民間工事現場で今より安全性が向上していきますし、責任施工を遂行する技術と能力を組合として保てると自負しています。
組合の活動は多岐に及びますが、分離発注の実現を当面の目標に掲げ、これからも仮設業の発展と地位向上を目指していきたいと思います。
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