何度か中洲の派遣コンパニオン(以下、「派遣」)に触れてきた。「触れる」といっても話に出してきたという意味なのであしからず。派遣先の中洲が不景気な今、「派遣」だけをする女性はもはや皆無と言ってもいいだろう。ほとんどが昼間に別の仕事を持っている。
それも昼の仕事があくまでもメイン。夜に出るのは週2回か3回くらい。ほとんどアルバイト感覚に近い。そして、専業のコンパニオン(以下、「専業」)に比べて、接客サービスへの意識が低い子が多い。
先日、知人行きつけのA店でのこと。A店は「専業」もいるが、店が忙しくなったときは「派遣」を依頼する。そして、やって来た20代前半の「派遣」が小生のとなりに座った。あとで分かったが、その「派遣」はA店に来るのは初めて。
何を隠そう初対面の異性に対して、人見知りがちの小生。少し黙っていると「誰か、ほかにお気に入りの子がいるんですかぁ~」と「派遣」が話を振ってきた。「いやいや、ここは付き合いで来ているから」と言うと、「じゃあ、いつもどこへ行くんですかぁ~」ときた。知人に連れてきてもらった店で、ほかの店の話をするのも気が引ける。適当にはぐらかしていると、しつこく食いついてくる。正直、この辺で少しムカムカしていた。その後、聞きもしない話をその「派遣」は続ける。
派遣「私、9月から昼の仕事に就くんですよぉ。だから、今月で中洲は卒業」
小生「へえ、それは良かったね。どんな仕事?」
派遣「デパートです。でも、どこって内緒ですよ。会ったら嫌だし」
小生「......(どこって聞いていない)」
派遣「まあ、イマドキ、中洲だけじゃやってけないしね」
小生「やっぱり、派遣は厳しいのかな」
派遣「そんなことないですよ。ウチの会社は大きいし」
小生「???」
派遣「9月からの仕事で研修やっているんですけど、すっごいだるい」
小生「......」
派遣「私、おばさんに嫌われるタイプなんです」
小生「......(そうだろう)」
そんな疲れるやりとりを続けた後、タバコを吸ってひと息ついていると、「やっぱり、他にお気に入りの子いるんでしょ。つまんなさそう」と「派遣」。実に面倒くさい。どっちが接客しているか分からなくなってきた。その後も少し話が途切れる度に「つまんなさそう」と来る。さすがに、耐えられなくなってA店を出た。
出た後で少し考えた。A店にとっては、客のひとりを「派遣」が追っ払ったようなものである。その「派遣」はA店に2度と来ないだろう。極論を言えば、「責任がない」のである。
接客サービスの質が悪い「派遣」が来ることで、店側が期せずして、常連に嫌な思いをさせるケースが増えるかもしれない。しかし、リストラを断行し、少ない「専業」でやっている店は、忙しい時、「派遣」に頼らざるを得ない。「派遣」をめぐるジレンマはこれから増えていくのではないだろうか。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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