いわば、やっと経営再建がスタートするという矢先に、大西氏の「更迭説」が浮かんでいる。稲盛氏の姿勢を受けて、JALのメーンバンクである政府系金融機関の幹部は「11月に東京地裁が更生計画を認可したら経営陣を刷新する。大西はありえないと思う。あれじゃあダメだ。MBAを取得し英語が話せる40歳代を起用したい」とはき捨てる。事業管財人である支援機構の幹部も「人事はすべて稲盛会長の胸のうちではっきりとはわかりませんが、秋以降、稲盛さんが経営にもっと乗り出されるように思います」と打ち明ける。
大西氏は2月、民主党政権の後見人的な存在である稲盛氏を会長に迎える際に、社長に就任した。歴代の社長にはいなかった整備部門からの異例の大抜擢だった。だが、そもそも大西氏の起用を画策したのは、西松氏らJALの旧体制の幹部と国土交通省の航空官僚である。つまり、大西氏を後継者にするというのは、旧体制に連なる面々が新社長を傀儡としてあやつりたい、ということに他ならない。
いまのJAL経営陣の顔ぶれからも、そのことはよくうかがえる。人事・労務担当の大村裕康氏を筆頭に、池田博、佐藤学、来栖茂実各氏ら旧経営陣の生き残りばかりである。彼らは新町敏行元社長に造反するクーデターを仕掛け、新町氏を退任に追い込んだうえ、西松前社長を擁立した旧体制のメンバーだった。
稲盛氏からすると、こうした顔ぶれではとてもJAL再生はおぼつかないと映るらしい。官邸に菅直人総理らを訪ねる際には「経営陣の陣容について官邸にずいぶん文句を言っている」という情報が航空関係者の間に広まっている。
JAL社内には「せいぜい3人程度の小幅刷新になるだろう」(企画部門の中堅)と稲盛氏の意気込みを軽く受け流す向きもある。だが、ある若手はこう言った。「JALの悪いところは、現場とマネジメントとの間が恐ろしいほど遠いことです。思い切って顔ぶれを変えて現場感覚のある人たちに変えないと、とても機構法で定められている3年以内の再建が完了しません。会社を立て直す実行力のある人たちを起用すべきです」。
早ければ8月31日の更生計画発表時に、人事構想の一端が示されるという観測もある。稲盛氏はもはや象徴天皇ではない。建武の中興の後醍醐天皇のような「親政」が期待されている。かつて同様に意気込んだカネボウ出身の伊藤淳二の轍を踏まなければいいのだが。
【尾山 大将】
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