27日と28日、中洲はジャズ一色となった。中洲のまち全体で行なわれる一大イベント、ジャズ・フェスティバルのためである。聞いたところでは、2日間で5万人の観客が押し寄せたとか。とにかく中洲は、たくさんの人であふれ返っていた。
その内容もいつもと違う。夫婦、学生、子ども連れ、若い女性のグループと、普段は目にしないジャンルの人々ばかり。イベントがあるのを知らずに中洲へ来ていた飲み目当ての常連たちは、「なにごとか」と目を白黒させていた。
時間は午後10時前。ここまで街が盛況ならば、小生の行く店もヒマではないだろう。そう思いながら回遊ポイントのひとつであるスナックのドアを開いたが...。
非日常から日常へ――。
いつものように、誰もいない広々としたカウンターの端っこに"遠慮がち"に座ることとなった。その店の名誉のためにあえて言っておくが、忙しくなるのはいつも11時過ぎてから。それまではいつものように、経営相談の時間。「経営」というと仰々しいな。要は、店長とスタッフが、小生を相手に日頃の商売のグチを言うのである。もっとも、これは小生が望んでのこと。萬月流の「聞きたかけん」。
さて、話題はまたも派遣の話。どうやら小生の記事を読んだらしい。「ほんと、ありえないですよ。あれは『刺客』です」と店長が大げさに言う。先週頼んだ派遣コンパニオンのことだ。ドアを開けると、丸太のような腕を正々堂々と露出した女性が、腕を組んで(このあたりは誇張だろう)立っていた。ボックス席へズカズカと押し寄せ、客を押しのけ着席。一瞬にして賑やかな店内に永遠とも言えるほどの沈黙をもたらしたという。
もうひとつ。初めて派遣されてきたコンパニオンが、常連客に向かってタメ口で話していた。あまりの自然さにチーママは、ほかの店でついたことがあるのだろうかと納得していたという。すると今度は、客にタバコの火を付けさせた。さすがに放ってはおけない。
客に様子をうかがうと「店の面子もあるから、黙っとるけど、あの"新人"はなんね。最初は冗談かと思って面白がっとたけど、もう辛抱できんばい」と、かなりの剣幕。説明がなければ、派遣は客から新人として見られてしまうことが多い。「あの子、派遣やけん。ごめんねえ」と、チーママは平謝り。その派遣には直ちにお帰り願ったという。
もちろん、質の良い派遣コンパニオンはいる。ただし、そうした上玉は、実績のある、つまり頻繁に利用する上客用。忙しいとき、たまにしか呼ばない店ほど、派遣会社に残っている質の悪いコンパニオンが来る。そして、数年前に比べると、明らかに質が下がっているというのが店側の実感のようだ。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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