―仙波さんは竹原市長にどう思われているとお考えですか。
仙波 彼(竹原市長)は、「仙波さんの生き様は誰にも真似できない。これだけ信念を通してきたことは、非常に尊敬に値する」と言っています。しかし、私は何も特別なことをしてきたわけではありません。警官として"当たり前のこと"をしてきただけなんです。他の全ての警官が裏金に手を染めて、年間で何10万、何100万というお金を手にしていても、私だけが偽の領収書を書きませんでした。1円も受け取っていません。
―裏金問題について、竹原市長はどのように言っていますか。
仙波 私は当たり前のことをしただけです。竹原市長も、「当たり前のことをするのが(警察のなかで)仙波さんひとりなのか」と言っています。だから、そういうふうに信念を通してきた私に対して、彼なりに評価はしてくれていると思います。
―政策面においても、ふたりの間で何か通じるところはありましたか。
仙波 私と竹原市長とでは"やり方"が違います。彼は、目的を遂行するためなら、「これしかない」というふうに考えるわけです。だから、議会を開かない、市長の方針に反する職員は懲戒免職に処する。しかし、この感覚は、民間企業では通用するかもしれませんが、市役所という公務員が働く場では違ってくるのではないかと私は思っています。もちろん、その職員が竹原市長の指示に反したのは事実ですから、いったん係長の職に戻した上で、私の言う基準に従って、それなりの処分に切り替えるつもりです。
―仙波さんは、議会の開催と懲戒免職の職員の復職を宣言しているわけですが、そのことについて竹原市長はどのように言っていますか。
仙波 彼(竹原市長)は、「仙波さんにお任せします」、「仙波さんの好きなようにやってください」と言っています。しかし、私と彼とでは"やり方"が違うと言いましたが、目指すところは同じなんです。彼は、「早く結果を出したい」と考えているからこそ、いろいろと厳しいことを言っているんですが、私は、もう少し時間がかかってもいい、他にも方法はあるはずだ、と思うわけです。だから、私は竹原市長とのバトルは辞しません。二人でバトルをして、最終的にどちらが公益かということを判断する。そうやって、これからもいろいろな事柄を進めていこうと思っています。
―仙波さんは、竹原市長の補佐として動くのではなく、ふたりが議論を交わすことでより良い行政を作っていこうと考えているわけですね。
仙波 そう捉えていただけると幸いです。私が阿久根市役所に入ることで彼(竹原市長)が今後も信念を貫けるのであれば、ということで私は市役所に入りました。私は彼の生き様が好きですから。ただ、彼は行政のトップとしては素晴らしい価値観を持っていますが、今のままでは誤解を招くことも多い。だからこそ、私がスポークスマンとして、いろいろな方にお会いして、お話ししているんです。
【文・構成 原薗裕樹】
<プロフィール>
仙波 敏郎(せんば としろう)
1949(昭和24)年2月14日愛媛生まれ。愛媛県立松山東高等学校卒。67年、愛媛県警察官採用試験に満点で合格し、採用後最初の試験でもトップの成績を収める。73年には同期で最も早く巡査部長昇任試験に合格するも、裏金作りに必要として上司から依頼された偽領収書の作成を拒否。以後、定年まで巡査部長の階級に留まることになる。05年、現職の警官としては初めて裏金問題を告発。定年退職後は、裏金問題についての講演活動を行なう。10年7月、阿久根市長・竹原氏の専決によって同市の副市長に選任され、8月2日に就任した。著書に「現職警官『裏金』内部告発」(講談社)がある。
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