―市役所の職員から、何らかの要望や意見は出ていますか。
仙波 ある職員が、自分のセクションの職員を増やしてほしい、と言ってきたことがあります。その理由を訊くと、「職員が自分しかいないとき、市役所へ来てくれる方への接待をするために、トイレに行けないことがあるから」と言うんです。だから、1日で何人の応対をするのかと訊いたら、平均で15人ぐらいだ、と。1日で15人の応対をするだけで年収800万円の職員が、トイレに行けないことがあるから職員を増やしてほしい、と言っているんです。そういう発想の職員もいる、ということです。「トイレに行くから少し待っていてください」と言えば、市民の方は待ってくれるんですよ。職員をひとり増やすために、どれだけのお金が必要だと思っているのか。まったく進歩がありませんよね。
―そのことについて、竹原市長は何と言っていますか。
仙波 竹原市長は、「これでも良くなったんですよ」と言っていました。いかに以前がひどかったか。私なんか、この10日間で昼ご飯を食べたことなんてほとんどありません。今日も、まだトイレにも行っていないんです。来客の方々が入れ代わり立ち代わりですからね。でも、行政は市民へのサービスです。私のようにしなければいけない、とは言いませんが、そのくらいの意識は、感覚の切り換えは必要だと思います。
―職員の方も、阿久根に住んでいる市民であることに変わりはないと思うのですが、市民と職員の間に隣近所でのふれあいといったような交流はないのですか。
仙波 やはり、市民の皆さんは「公務員の人はいいね」という気持ちを持っています。給料の格差が大きすぎるんです。だから、どうしても、そこに接点を見出すことは難しい。年間で8,000人以上の方が生活苦で自殺していますが、そういった理由で自殺するのは公務員ではなく民間の方々です。この問題に対する解決策は、ただひとつ。官民格差をなくすこと。「あんたも大変だね、自分たちも大変だよ」という意識を持つことです。
―人件費の削減には、経費を切り詰める以外の目的があるということですね。
仙波 そうです。市民と職員との間にある垣根を取り除くんです。そして、市民も職員も一緒になって、地方自治とはどうあるべきか、ということについて考えていきたい。そういう時期にきているのだと思います。一身の既得権益だけを追求するような議員だけの話ではないんですよ。議会だって、夜の6時半から開けばいい。土日に開いてもいい。そうすれば、市民の方も参加できますから。本当に一生懸命に公益のために頑張ろうと考えている人が政治に参加するためには、そのくらいのことはやってもいいと思います。
―政治家が政治屋になってしまっている、ということですよね。
仙波 ただ、もちろん、金持ちしか選挙に出られないということではありません。これからは、職業議員という時代ではないんです。仕事をした上で、夜や土日に議会を開けば十分にクリアできる話ですから。政治を一生懸命にできない議員の方には、去ってもらいたいですね。
<プロフィール>
仙波 敏郎(せんば としろう)
1949(昭和24)年2月14日愛媛生まれ。愛媛県立松山東高等学校卒。67年、愛媛県警察官採用試験に満点で合格し、採用後最初の試験でもトップの成績を収める。73年には同期で最も早く巡査部長昇任試験に合格するも、裏金作りに必要として上司から依頼された偽領収書の作成を拒否。以後、定年まで巡査部長の階級に留まることになる。05年、現職の警官としては初めて裏金問題を告発。定年退職後は、裏金問題についての講演活動を行なう。10年7月、阿久根市長・竹原氏の専決によって同市の副市長に選任され、8月2日に就任した。著書に「現職警官『裏金』内部告発」(講談社)がある。
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