多くの事業者にとって中間期末日にあたる8月31日、(株)馬場善が破産手続申請の準備に入った。九州地区でも指折りの硝子工事会社である同社は、なぜ破綻に追い込まれたのか。弊社・特別取材班で討論と分析を行なった。
<業界環境の悪化>
司会:まず業界環境や同社の業績をどうみるべきか。
O:馬場善の取引先の多くは、スーパゼネコンや準大手ゼネコンといった大手の建設業者だ。公共工事は従来から減り続けているため、不足分を何とか民間工事で支えていたのだが、2年前のリーマンショックでそれも大きく減少してしまった。その影響が数値として現れたのがゼネコン各社の2010年3月期決算ということになる。平均するとおおむね1割ダウンという状況だが、大手ゼネコンの場合には売上の減少幅が大きくとも経費の減少幅まで大きくなる訳ではない。その結果、少ない受注のなかで従来並みの利益を残そうとすれば、しわ寄せは工事業者や資材業者の方に来る。同社の場合にも、採算面では相当苦戦を強いられていたと思う。
T:地場のガラス工事業界に眼を向けると、同じく福岡に本社を構え九州トップクラスにランキングされる同業他社の売上高は年々落ちてきている。にもかかわらず、ここ数年の同社の売上高は伸張傾向にあった。周辺の業者からは、同社の極端な安値受注を指摘する声が従来からあがっており、それが企業としての体力をすり減らしていくというお決まりのパターンは同社にも当てはまるのではないか。また、東京進出の効果を疑問視する声も、従来から根強く聞かれていた。
K:しかし仮に東京進出が無ければ、馬場善は3年前に潰れていたのではないかと私は考えている。実際、リーマンショック後に九州の市場が急速にしぼんだこともあり、東京地区の売上構成比率が相対的に上昇していたようだ。馬場氏によると、直近では全体の半分を占めるまでになっていたとのことであり、そうであるなら東京進出の判断自体は誤りとは言えないだろう。むしろ、売上規模を維持してそれなりに利益を確保しても生き残れないのであれば、業界そのもの、業種そのものの存在意義から疑ってかかる必要があるのではないか。
<決意を突き付けろ>
司会:ガラス工事業者にとってはメーカーとの関係もとても重要とのことだが。
O:実は最近、メーカーサイドから「馬場善との取引を控えるように」と助言を受けたとして、業者さんが私に相談にきた。ガラス工事業者にとってメーカーへの支払いは相当なボリュームを占めるため、支払いに関して協力を求めがちだ。しかし、内需縮小によってメーカー側の利幅も小さくなっていることからすれば、協力できる範囲も限られてくる。そのなかで、メーカーとしてもはやカバーしきれないとの判断があったのではないか。
T:同様の助言に従って結果的に難を逃れたと話す業者もおり、メーカーも含めて皆が警戒感を強めていたようだ。財務面から見ていくと、08年5月期を境に資産総額が急に膨れた印象がある。ほぼ同じ売上高を記録した08年5月期と05年5月期とを比べてみると、完工未収入金が大きく膨れており、その傾向は09年5月期も引き継がれている。積極的な営業姿勢の裏返しとして事実上の不良債権が矢継ぎ早に生じ、それが徐々に資金繰りを圧迫していったと考えることはできないだろうか。
K:ただ、馬場善は、焦付きが少ないことを自慢のひとつとしていた。取引先も大手ゼネコンであることからすれば不良債権とまでは言えず、工事トラブルなどによる未収金と見るべきだろう。売上高が約33億円で約13億円の立替を生じる資金繰りが厳しいものであったことは確かだ。メーカーとの関係だが、建設業界の不振と対照的にAGCに代表される各板ガラスメーカーはいずれも空前の利益をあげている。自動車部門、海外部門がこれを支える一方で、かつての主役である建材部門の重要性は低下している。メーカーにとって建材用ガラスの売り先を抱えるメリットも薄れてきている。今回の件は、そのようなメーカーの姿勢に潰されたという側面があるのではないか。ガラスを含めた建材業者・工事業者は、意を決してメーカー側の真意を確かめる必要がある。
<資金の逆ザヤはどこで生じた>
司会:その他破綻の要因となりうるものは何か。
K: 09年5月期の決算書をみると未収入金が約13億円、工事未払金が約2億円となっており、約11億円の資金の逆ザヤが生じている。また、東京での売上比率が上がってきた近年ほど、その傾向が強くなっている。とすれば、逆ザヤの多くは東京で生じた可能性が高い。馬場氏が以前、東京は職人の組合がとても強いところだと漏らしたことがあったが、確かに東京と九州では施工会社と職人との関係に差があるようだ。馬場氏に難があったとすれば、九州で慣れ親しんだ(施工業者に都合の良い)職人との馴れ合い関係を、東京の場で改めきれなかった点にあるのではないか。たとえ職人に対してであっても「ちょっとだけ支払いを待って」は通用しない厳しいビジネス社会だ。そこに対する認識の甘さが資金の逆ザヤを加速化させた大きな要因ではなかったろうか。
【文・構成:田口 芳州】
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