<V字回復の決断>
景気が悪い悪いと言われるなかでも、人生さまざま、企業の対応さまざまである。一番残念なのは、九州建設の変わり身の遅さだ。「デベロッパーさんよオサラバ!!」を決断できなかったことで、銀行の管理下に置かれるようになった。「経営者の決断と実行のスピード」で天国と地獄の差がついてしまう。地獄転落の例が九州建設であるが、天国の例もたくさんある。
まず、日建建設(福岡市中央区)は、以前に詳細に紹介してきたので省略するが、人切り・コスト削減を鬼になって金子社長はやり抜いた。完工高13億円でも黒字が出る筋肉質の組織に仕上げた。アルシスホーム(福岡市博多区)の人減らしも凄かった。ピーク時80名いた社員を40名以下、つまり半減させてしまった。「人件費が減れば経営は楽になることを初めて知った」と語る小柳社長の顔色は、精気が蘇っている。
「首を切れば良いのか!!」と異議申し立てするのが、西中洲樋口建設(福岡市中央区)の横尾社長だ。09年6月期は大きな赤字を出した。「2期連続赤字を出せば世間から物笑いの種になる。信用失墜する」と危機感を抱いた。社員たちに呼びかけた。「会社設立以来の難局に立ち向かわなければならない。辞める人は引きとめないが、こちらから首を切るようなこともしない。ただし、みんなで辛抱しよう。人件費・経費の見直しはする」と方針を述べた。退社する者は1人も出なかった。10年6月期は大幅な黒字転換となった。
あの内整理したさとうベネックはどうなったのか。ネクストキャピタルの資本傘下にある。紫原社長が弊社に立ち寄ってきた。10年6月期の報告に来たのである。「おかげさまで今期は完工高120億円、最終利益4億円の見込みがついた」と意気揚々としている。最初、社長に就任していた頃は「果たしてこの人は経営者として務まるのかしら」とひ弱さを感じた。ところが、会うたびに自信に裏付けられた迫力ある顔付きになってきた。
好決算になった要因を尋ねた。解答は明快・シンプルである。「社員たちが危機感を共有して自立的な意識を抱いたから」というものである。社員たちを奮起させるために、現状の経営状態をオープンにした。月次の数字も全社員に公開して、己の稼ぐべき数字を意識させたのである。しかし、まー、さとうベネックの「V字回復」を目の当たりにされれば、業績チンタラの経営者は言い訳できないのではないか!!
<苦しい覚悟 過去を捨てなさい>
(1)「過去を捨てなさい」というのは「悪しき請負意識を払拭しなさい」ということだ。まずは業界全体が共同で発言することだ。「仕事をください」という従来の陳情型では、同情は得られない。「建設業界が潰れたらどうなるのか」という意見提議=公告する能力を業界全体で習得する必要がある。
(2)次に、「請負を超えた先のビジネスモデルを築きなさい」と述べたい。上村建設の強さの秘訣はたびたび触れたから、説明の必要はなかろう。請負のチャンスに満足せず、このきっかけを永続できる(ストックビジネス)仕組みを検討したらどうだ。行きつくところは、タウンマネジメントになることだろう。たとえば、九州大学六本松キャンパス跡地の開発プランを練り、管理ビジネスまで引き受ける領域までこなされることに挑戦してみたらどうだ!!請負業に凝り固まっている者にとって、これは難儀な革命的変身である。
(3)公的インフラに関しては、耐久年数がとっくに過ぎているものが多い。(1)の部分と重複することもあるが、要は業界では提案していく活動の鍛錬が大切だ。
(4)くどく強調したい。住宅分野へ進出してみたらどうか。この分野は経営者の想いがお客に伝わる。経営者の住宅哲学がビジネスになるとは、やりがいがあると思う。
デフレ時代に続く以上、請負でまともなことをしていても、対価・利益を得ることは不可能だ。発想をチェンジするしかない。この覚悟ができないのなら、廃業した方が賢明である。
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