<技術継承と新技術開発が困難に>
――先ほども少し出ましたが、日本の建設技術は非常に優れていると思います。外国に行くと道路がガタガタだったり、建物が歪んでいたりしますが、日本ではそういうことはほとんど感じることがありません。
谷村 海外に行って工事現場を見ると、日本人から見たら随分と雑なことをしているなと感じることがあります。たとえば道路工事の安全管理にしても、日本での工事ならば周りを囲って通行人が絶対に入れないようにしますし、防音や粉塵対策までやります。けれども海外では、そこまでしていないケースもままあるのです。これは国民性の違いと言いますか、国民が求めるレベルが違うのだろうと思います。道路の平面性にしても、日本ではミリ単位でつくりますが、海外ではそうではないようです。
梅林 技術力の高さは日本の特長だと思います。たとえば日光東照宮は当時の100万両をかけて建築されました。塗装を補修するだけでも莫大な費用がかかると聞きます。これは幾重にも塗料が塗り重ねられているためで、そういった匠の技があり、その継承が続けられて今の技術力の高さが保たれているのだと思います。これは世界に誇るべき伝統だと私は思っております。
谷村 世界と比して明らかに日本の技術が勝っていると感じることがありました。一時期、ISOの認証取得を促されたときがあり、私たちも認証取得へ向けて取り組みを開始しました。国際標準ということで、どれだけ素晴らしい技術の粋が集まっているのかと期待していたのですが、どうもイメージと違うぞと感じたのです。たとえば石を切るときに怪我をしないように面取りをしようというのがありました。こんなことは言われなくても日本では当たり前にやっていることです。わざわざ指示書に書くような無駄なことはしなくてもいいくらいのレベルの話なのです。タイルの貼り方も同じです。端を合わせるときの処理方法など、いずれも国際標準といわれるもの以上の作業を普通にやっていました。国際標準という名前だけで、そちらの方がレベルが高かろうと思うのは明治維新当時の日本人の感覚なのだなと意識を改めましたよ。
川畑 ただ、これまでの技術力が、これからも維持できるという保証はどこにもありません。かつては民間企業の中にも研究所というのがありました。今でもスーパーゼネコンクラスは持っているのかも知れませんが、昔は各地にあったのです。行政の方も分からないことが出てくると民間企業の研究所の戸を叩いたものです。それが今のような厳しい経営環境にさらされると維持できなくなってしまいました。経費をカットせざるを得ない状況は、こういった技術の開発力の減衰にまでつながるのです。以前のやり方がすべて正しいとは言いませんが、これからの建設業が今後解決せねばならない問題のひとつだと思います。
――安値競争が続くと企業の核心部分である研究開発部門まで削らざるを得なくなるのですね。
梅林 道路の水平面にしても、単純に自動車を運転するときの快適性を高めているだけではないのです。救急車が道路の穴にはまってしまったら中に乗っている患者さんの命まで危ぶまれることになるでしょう。アメリカでは公共投資を極めて削った結果、維持管理費用まで抑制するようになり、結果としてミネアポリス橋が崩落してしまう大惨事が引き起こされました。これは決して他人事ではありません。インフラというのは永遠にそのままの姿を保つものではないのです。2020年には7万もの橋が築50年を超えることになります。公共投資を縮減することは市民の命を危険にさらすことにもなるということを分かっていただきたいですね。
永野 よく公共投資の金額がヨーロッパに比して高いか安いかと言われることがあります。かつてGDPに対する公共投資の額が非常に高かった時期もありましたが、今はヨーロッパと同じ程度にまで落ち着いています。けれども、よく考えてみてください。ヨーロッパを旅行してみると分かりますが、フランスなどは特に非常に平坦な地形なのです。ドイツにしてもしかりです。トンネルも日本ほどの数はありません。山を切り拓くときでも大型の重機が林に入っていきます。日本にはそんな生易しい傾斜はないので、とてもまねることなどできないのです。日本はヨーロッパに比べると大変厳しい地形なのです。それにもかかわらず、同じ比率の投資金額では、結果どうなるかは想像がつくかと思います。
川畑 永野会長のおっしゃることにひとつ付け加えるなら、ヨーロッパと日本では歴史的な蓄積が違います。第2次世界大戦の頃にはアウトバーンも整備されていました。日本は近代化のために一からつくり直さなくてはならなかったのです。そして、今も高速道路網は完成していません。そんな中で公共投資縮減を急いでやってしまうと、品質の維持、技術の保持に極めて大きな痛手をこうむってしまうことになりかねません。そこをぜひ政治家の方には考えていただきたいと思います。
<出席者> | |||
大分県建設業協会 梅林秀伍会長 |
長崎県建設業協会 谷村隆三会長 |
||
宮崎県建設業協会 永野征四郎会長 |
鹿児島県建設業協会 川畑俊彦会長 |
◆建設情報サイトはこちら >>
建設情報サイトでは建設業界関する情報を一括閲覧できるようにしております。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら