先日、訪れた店でのこと。酒が進んだママさんが、最近起こった事件について怒りをぶちまけた。聞けば、ひったくりに遭ったという。
ここ数年、中洲飲食店の女性経営者、つまりママさんを中心に中洲で働く女性たちをねらったひったくりが頻発している。少なからず酒が入っている女性は、ひったくりにとって格好の標的だ。犯人たちは、ねらいを付けた女性をストーカー同様にマークし、帰宅ルートや自宅の場所を把握してから、犯行に及ぶという。
特にねらわれやすいのは、着物姿の女性だ。バッグを奪われた後、追いかけようにも着物の裾が邪魔をするからだ。しかし、なかには裾をまくって走り、犯人を確保したというママの武勇伝も...。
あるママは、仕事帰りにずっと尾行している男の存在に気づいた。尾行をかわすため、途中にあったホテルのロビーに駆け込んだ。外を見ると、その男はずっと出入り口で待っていた。
ホテルから出られず家に帰れない。ママが困り果てていると、県外から観光で来たという男性が声をかけてきた。「何かお困りのようですが...」。尾行されていることを打ち明け、自宅まで送ってもらい事なきをえた。「怖いから、恋人のふりをしようと必死でその人の腕にしがみついたの」と、そのママは回顧する。男性にとっては嬉しい誤算といったところか。もっともそのママは、生物学上、男に分類されている。
冒頭に出てきた、ひったくりの被害にあったママは、バイクに乗った犯人に襲われた。バッグを奪われた瞬間、財布がこぼれ落ちた。普通なら『不幸中の幸い』といったところだが、そのママにとっては事情が違った。財布にある現金やカードよりも大事な売り掛け帳がバッグに入っていたのだ。逃げ去る犯人に怒号が飛ぶ。「あんた、財布はこっちばい。そのバッグには何も入っとらんよ~!」。
実際問題、売り掛け帳の紛失ほど痛いことはない。「合計したら100万円を超えるときもあります。調べ直すのに1カ月はかかりますよ」と、被害にあったママは悔しそうな表情で語った。
これから迎える10月から年末までは、最もひったくりの危険性が高まるシーズンだという。店の売上が上がり、中洲で働く女性の財布が分厚くなる時期である。弱い女性をねらう卑劣な犯罪を許してはいけない。同伴・アフターよろしく、ボディーガードを買って出る中洲っ子の出番が必要かもしれない。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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