<貸し出し先に両行の違いが>
地銀の究極の使命は、地域金融の円滑・安定化である。中小企業等貸出金残高および比率【表2】については、福銀は4兆2,013億円で総貸出金比率が68.75%であるのに対し、西銀は3兆9,643億円で80.38%という明らかな違いが出ている。福銀は09年3月期末比で564億円、1.3%も中小企業等貸出が減少している。逆に西銀は、比率こそ微減しているものの、貸出金自体は09年3月期末比22億円増とわずかながら増加している。
「福銀は都銀化している」という声を聞くこともあるが、まさにこうした部分に表れていると言ってもいいだろう。もちろんすべてではないだろうが、西銀の地銀としての使命感なり決意を、この数字は表していると考えられる。
両行の業種別貸出金を見ても、それぞれに特徴が出ていて興味深い。【表3】を見ると、貸出上位3業種は福銀が(1)不動産業、物品賃貸業、(2)卸売業、小売業、(3)地方公共団体となっている。一方、西銀は(1)不動産業、物品賃貸業、(2)卸売業、小売業、(3)製造業となっており、1位と2位は変わらないが、3位で地方公共団体ないし製造業という違いが出た。
福銀は多くの行政の指定金融機関を獲得しており、同時に安定的な貸出先を確保していることを意味し、西銀は民間で稼ぐ(稼がざるを得ない)姿勢が読みとれる。ちなみに、西銀の地方公共団体への貸出順位は5位である。
銀行の安定優良資産としての住宅ローンはどうだろうか。福銀が1兆5,323億円、西銀が1兆7,159億円と同水準だが、西銀が若干優位といったところだ。
<福銀、18年ぶりの新支店開設へ>
新規出店に関して、西銀は合併後に大幅な支店網の再構築を行ない、現在では国内本支店で208店舗まで絞り込んでいる。
それとは逆に、福銀は今年12月、18年ぶりに山口県宇部市に新支店を開設する。同行によれば、山口県は九州各県とも人的・経済的な交流が盛んな地域であり、九州ならびに山口県のさらなる活性化に貢献していきたいと発表している。しかし、12年前にいったん撤退した宇部市への出店は、近年の山口銀行による県境を越えた営業攻勢や北九州銀行設立への対抗措置という意味合いが強いのは明らかだ。
また今年10月には、長崎県佐世保市に新築している「ふくおかフィナンシャルグループ佐世保ビル」(FFG佐世保ビル)をオープンさせ、佐世保支店を移転・開設する。グループ銀行である親和銀行も同ビルに入る予定。
このように物理的な攻めの姿勢という意味では、福銀が一歩リードしている感がある。
<他行・他機関による両行への評価は>
この両行を、他の銀行はどのように見ているのか。A銀行幹部によれば、「資金ニーズ自体が減少している現状で、企業の実態観察がよくなされないまま金利引き下げ競争を行なっている傾向が見られ、消耗戦の雰囲気を感じる。その前に、顧客の売上向上策など、企業を育てるという視点にもう少し立つべきではないだろうか」という意見が聞かれた。
またB銀行からは「西銀はOBが顧客を紹介するなど、母体行を支えていくという姿勢が強い。行員のバラエティの豊かさも感じられるし、昔の西銀の野武士集団的な雰囲気も少しは残っているように感じる。福銀については、顧客から聞いた話を統合すると、若干の冷たさを感じる。ただ、企業再生支援については積極性を感じるし、地元を支えているという自負を感じさせるのも福銀だ。また近年、北九州地区の基盤強化に動いているのも大きな特徴と言えるだろう」という意見が聞かれた。
では、民間格付会社による両行への評価はどうであろうか。【表4】の格付けを見ても分かるように、社会一般のイメージや内容を見ると、トータルでは福銀の方が西銀に勝っていると言える。しかし、西銀は日々着実に力をつけつつあり、十分に福銀のライバルとしての存在感を増している。「福銀は殿様商売」と揶揄された時代は過去のものとなり、現状に胡坐(あぐら)をかき続けることは不可能と言える。両行の戦いは、より一層激しさを増していくであろう。
【神田 将秀】
[COMPANY INFORMATION]
(株)福岡銀行
頭 取:谷 正明
所在地:福岡市中央区天神2-13-1
設 立:1945年3月
資本金:823億円
(株)西日本シティ銀行
頭 取:久保田 勇夫
所在地:福岡市博多区博多駅前3-1-1
設 立:1944年12月
資本金:857億4,500万円
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