<本音は6月に洩らす>
(株)馬場善(本社・福岡市博多区、馬場譲代表)が破産申請して1カ月が過ぎる。
(1)この倒産で建設業界におけるガラス工事業は事業として成り立たないことを証明した。
馬場氏から電話があったのは5月の連休明けである。「東京に出てきて良かった。九州にいたら3年前につぶれていた。東京にはまだまだ腐るほど仕事がある。たとえば丸の内の再開発の山は越えたが、神田地区の再開発計画は目白押しだ」と話す馬場氏。だが、最後に「ただ単価は厳しいな」と弱気な発言を洩らしていた。
同社の決算は6月期だ。ちょうど来期の予算組みをしていたのであろう。2010年期は赤字と見た。厳しい経費見直しをしていたようだ。
「九州にいては駄目」と判断し、東京に進出して15年。主力のスーパーゼネコンとの取引開拓に成功した。単価だけで取引が成立できるわけではない。技術力を売り込むために強力な設計スタッフを本社に揃えた。このことは業界でも意外と知られていない。技術力でスーパーゼネコンの窓口をこじ開けたから不良債権のトラブルも皆無であった。我が道を貫く馬場善であったから福岡の業界はうらやんでいた。
嫉妬されていたからこそ、倒産すると様々な陰口が叩かれた。「計画倒産だ。財産を隠している」とか「奥さんとは離婚した」とかである。やり手の馬場氏のことであるから資産隠しはあっただろう。ここで問題にしたいのは「じゃあ、同業者の皆さん! 馬場善は欲をかいて東京に進出して倒産した。貴方たちは福岡、九州に残って小規模で生き残れるか」という問いかけに正面から受け止められるかどうかということである。
誰もが「生き残れる自信がない。廃業しかない」という返事しかできないだろう。極端なことを言えば一社しか残らなくなったとしてもガラス工事業は事業としての成立基盤がない。「地元に固執しても地獄、外に打ってでても地獄」なのだ。
<メーカーが見捨てた>
馬場善の粉飾決算はいずれ明白になるであろう。この現実を踏まえたうえで板ガラスメーカーが見捨てた。同社が支払い条件の変更を打診した。従来ならばメーカーは支援したはずだが、応じなかった。応じなかったどころかこのメーカーは関東の子会社ガラス工事会社に「馬場善の九州地区の現場を奪え!」と命じている。メーカーにはもう義理張りを捨てたようだ。
(2)ガラス工事会社の経営者の方々は「板ガラスメーカーには建設ルートに微塵も魅力がない」という非情な事実を馬場善の倒産から学ばなければいけない。
この10年間で板ガラスメーカーは国際企業に様変わりした。ついこの前までは「板ガラスメーカー3社は井の中の蛙」と揶揄されていたのに隔世の感がする。アメリカ、ヨーロッパのメーカーを買いまくって世界のネットワークを構築した。自動車業界に匹敵するグローバル企業に変身したのである。また自動車向け・ガラス汎用向けなど多品種対応も完了した。必然的に国内建設用ガラスのシエアが低下するようになる。重要性が薄れる。同時に建設業界の泥臭い柵(しがらみ)からも敬遠したくなる行動パターンはグローバル企業にとって必然的なパターンである。
ガラス工事業の経営者の方々は「板ガラスメーカーから見捨てられた馬場善の倒産の一面」を理解すべきだ。ドライな時代になったのである。選択の道は「余裕があれば廃業か、または破産しかないのである。だが、廃業するにしても不動産処分が伴う。ある同業者が廃業の道を選んだのだが、処分する側の都合よい不動産価格がつかない。整理するまで1年半の時間が必要であった。それからまた一段と不動産環境は悪化している。
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