<ビルトイン工法でガラス工事職人はいらない>
(3)馬場善の倒産の背景には工事粗利の半減という冷酷な事実がある。
馬場善も厳しい経費の見直しを行なっていた。規模では同社の次に続く同業者も同じような費用カットの大鉈を振るった。その会社では経営者自身の給料もピークの4分の1にした。この経営者が「この10年間で売上げが半減した」と嘆く。「工事量が半減したと言うことではないでしょう?」と質問を投げかけると、「確かに工事の半減というわけではない別の要因がある」という切り出しで説明が始まった。
説明をまとめると、その要因は、まず粗利が半減していることだという。10年前は、粗利を最低24%確保することができていた。それが最近では12%取れれば良いところである。これに仕事が減ったことが加算されて相対で売上げ半減という悲惨な状況を招いている。加えること最近では見通しの仕事がない。これでは半減以下になるのは目に見えている。「馬場善が倒産したからと仕事が廻ってくるという柔な環境ではない」となる。
次に「これではガラス工事職人は飯が食えないだろう」と投げかけてみた。すると「まったく飯が食える話ではない。月収30万取れるのは容易なことではないから家庭を維持することは至難の業だ。もう職人のなり手がいなくなるだろう」と断言した。ガラス工事に占める取り付け費(=職人代)の割合は30%になる。ゼネコンから厳しい単価の強要は必然的に職人費の値下げを招く。ガラス工事職人だけでなく建設業界は建設技能集団を痛めすぎている。
ガラス工事の値下げは、まずガラス本体の値下げに始まった。近年、安い外国産の輸入が加速化した。馬場善も輸入物を取り扱いしていたのだ。次なるターゲットは職人工程を省くことである。首都圏での高層ビルには「ビルトイン」方式の工法が急増している。中国などで生産されるガラスを工事現場に見合った「ビルトイン」(現場組み合わせ)できる想定で搬入される。こうなると職人の手を借りなくても現場の取り付けは容易にできる。まさしく大胆な「職人の手外し」の工法といえる。
たとえば30階建てのビル受注をしたとしても馬場善のようなガラス工事業者の出番は玄関廻りなど1、2階しかなくなる。人様の目に触れるところだけは職人様の手をお借りしようという魂胆なのだ。こうなるとビル建設工程における職人を使ったガラス工事の部門は「不可」というレッドカードを宣告されたのに等しい。「自ら首を絞めなさい」と通告されても誰でもが「脱ゼネコン」という方向転換できるわけでもない。
この際、ガラス工事会社が結束して全国一斉に工事ストップの決起行動を起こすことが重要ではないだろうか。その位の実力行動をして世間に現状の深刻な状況を喚起しなければ一歩も前進できないと考える。そうでないと「あちらさんが潰れた。こちらさんがヤーメタ」ということの繰り返しで、いずれ建築ガラス工事業は消滅してしまうであろう。
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