<侵食される国土>
「観光客にはどうかと思う田舎のゴルフ場でも『見たい』と言うので、何カ所かを案内しました」というのは、ゴルフ場売買の斡旋業者A氏。彼が案内した外資とは韓国資本だ。「ディズニーランドや温泉だけでなく、ゴルフもしたいという韓国人観光客が増えたのはたしか。かつての日本同様、海外で自国の観光客相手にゴルフ場経営しようという韓国資本がいてもおかしくはない。ただ周りにこれという観光施設がなくとも『見たい』と言われると、何か別の狙いがあるのかなぁ」とA氏は首を傾げていた。韓国資本のゴルフ場買収は九州、中四国からはじまり、どんどん北上しているという。
答えの1つは東京財団の『日本の水源林の危機』と題する政策提言にある。同財団は昨年1月、「グローバル資本の参入から『森と水の循環』を守るには」という副題で提言しているが、今年1月には「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点」と題する現状レポートを兼ねた第二弾を発表した。それによれば、千葉県にある148ゴルフ場のうち、31は韓国や欧米系外資だという。千葉県は日本のゴルフ場銀座の一つ。東京の隣接地として、純粋にゴルフ場経営が成り立つ条件がある。しかし、地方では温泉や良質の湧水が出るなど、ゴルフ場経営以外の付加価値があるところも少なくない。韓国資本がゴルフ場買収に積極的になっても、おかしくはない。
そこへ追い討ちをかけてきたのが、2~3年前からの中国資本による森林買収の噂だ。「山を買いたい」とか「木材が欲しい」という中国人、あるいはその代理人とおぼしき日本人が各地に現れた。
「2~3年前に地元製材所団体に『ヒノキを買いたい』という話がきたようですが、その後、まとまったという情報はありません」(岡山県の真庭森林組合)。
東京財団の先のレポートは、同様の話が三重県大台町や長野県天竜村ほか、埼玉県や山梨県でもあったという。しかし、地元が難色を示したこともあり、いずれも立ち消えになっているようだ。そんな現状から林野庁が各都道府県に調査を依頼した結果、かなり明確になったのは北海道だ。
「生前の中川昭一先生(元金融・財政相)から『調べて欲しい』と言われていました」という道議会の小野寺秀議員(自民党)の質問に、道庁が今年6月に出した資料によれば06年~09年までの外資による土地買収は7件、5カ国。
「林野庁の依頼は06年~08年の売買ですが、道庁独自に09年も含めて調べたところでは、中国が3件、他はニュージーランド、シンガポール、豪州、英国です」(小野寺議員)。
そのうち、中国が買収した後志(しりべし)地方はほとんどが森林地帯。3件のうち1件は58haと広大だが、ほかは2haと1ha。後志支庁のある倶知安町一帯は、ニセコを始めとするスキー場や温泉もある観光地。加えて、羊蹄山系からの良質な水にも恵まれている。広いところは木材目的あるいはスキー場目的とも考えられるが、ほかは何が目的か。尖閣諸島近海での石油ガス開発に先手を打った中国は、日本側からストローのように吸い上げているのでは、と疑うムキがある。それと同様、かねてより囁かれる「中国資本の狙いは水」なら1haでも可能だ。急速発展し、富裕層が増えるほどにペットボトル需要が拡大している現状ではあり得る話だ。
「こちらでは豪州、中国、香港、シンガポール、北米、欧州資本が、この3年半で24件取得しています。しかし、中国に限らず外資の買収目的はほとんど『資産保有』となっているだけで、本当の狙いがどこにあるかはわかりません」(倶知安町企画振興課)。
同町には5~6年前から、欧米を中心とする観光客が増加。1~2年前からは、中国人観光客も来るようになったという。外資が取得しているのはほとんど森林地帯で、それぞれバラバラ。「スキー場あるいは別荘開発が考えられる」(同町企画振興課)とはいえ、一定の面を外資に握られたことに変わりはない。それも林野庁調査よりはるかに多い。全国を精査すればどうなるか。
<日本消滅の危機>
見落とせないのが、倶知安町は観光地であると同時に、陸上自衛隊の駐屯地でもあることだ。同じ北海道の砂川市では「英国」と分類されてはいるが、香港在住者が300haもの広大な土地を保有している。目的はこれまた不明だが、隣接する滝川市もまた陸自の駐屯地である。
08年には、長崎県の対馬で自衛隊基地隣接地が韓国資本に買われていたことが発覚。同じく、五島列島沖の無人島(姫島)所有者と中国企業が、売買交渉を進めていたことも判明した。御影石の産地だが、地政学的には東シナ海を臨む軍事的要衝の地。実際に陸側には航空自衛隊のレーダー基地がある。そんなところが中国企業に渡ったらどうなるか。
3~4年前、石破茂元防衛大臣事務所に、横須賀市の住民から「知人のところに中国人から土地買収の話が持ち込まれた」との通報があった。そこは横須賀港の米海軍、海上自衛隊の基地が一望できるところだった。
ゴルフ場や森林など一定以上の土地売買情報は把握できるが、小規模取引は把握困難。仮に把握できても現行法制度下では外資の土地買収を規制するのは不可能。それだけ日本は野放図なのだ。かつて中国の李鵬元首相は「日本なんて21世紀には消えている」と豪語したが、囲碁同様に内陸から布石を打たれ、内部から蝕まれたらまさしく日本は消える。
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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外資の土地買収に潜むもの 姿を現したゴーストたちの狙い(上)
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