中小企業が抱える問題を提起 金融機関に求めるもの
円高が進み、刻々と変化する世界経済のなか、国内の中小企業を取り巻く金融情勢は厳しさを増している。今回は各方面でご活躍の5名の方々に、金融機関に求めるものとは何かについて討論していただいた。核心に迫る議論の本質は、現在の金融機関と中小企業が抱える根本的な問題の提起となった。
<参加者> | |||
アジア太平洋マネジメント 代表 青木 道生 氏 |
(株)コーリンプロジェクト 代表取締役 高木 晃 氏 |
||
広瀬公認会計士事務所 所長 広瀬 隆明 氏 |
山下直勝税理士事務所 所長 山下 直勝 氏 |
||
福岡スプリットン工業(株) 代表取締役会長・C.E.O. 大庭 和巳 氏 |
―まず、本日ご出席の5名の方々に、それぞれの自己紹介をお願いします。
広瀬 北九州市八幡西区で公認会計士事務所を経営しております。以前は監査法人、ベンチャーキャピタルに勤務しておりましたが、5年前に今の事務所を立ち上げました。
大庭 金融機関勤務を経て、昨年6月から現職に就きました。事業はコンクリート製品の製造販売をしています。厳しい状況のなかですが、確実に利益を出せる体制を構築するように、提案型の営業を目指しています。
青木 学卒後、金融機関にて融資、法人渉外担当として勤務していました。しかし、中小企業と金融機関との間でのさまざまな議論がかみ合わないケースがあり、両者の潤滑油役に就きたいと強く思い、今年3月に独立しました。現在は、さまざまな金融機関と中小企業との橋渡し役をしております。
山下 税理士の専門学校の講師から始まり、福岡市内の税理士事務所および税理士法人勤務を経て、今年3月に独立開業しました。
高木 私は、須恵町で車のカスタムパーツ、とくにLEDのテールランプを主力商品とした販売をしています。新規開拓営業と新商品の開発に注力し、将来的にはアジアのマーケットに照準を合わせた活動を目指しています。
―日頃のそれぞれの営業活動のなかから、最近の金融機関による中小企業向け融資のスタンスに対して、どのような要望などがありますでしょうか。
高木 金融機関のスタンスとしては、保証協会付きセーフティーネットの枠組み内だけの融資が多く、スムーズではありません。個人保証や担保設定内の対応のみです。逆に、金融機関側からこうしてほしい、ああしてほしいという新しいアイディアがありませんね。
―経営者との話のなかで、最近の金融機関は金融庁の自己査定マニュアルに基づき、機械的に処理しているのだと感じました。残念ながら、経営アドバイスのようなかたちで対応する金融機関は少ないですね。
広瀬 つねづね、決算書の「透明性」を訴えている金融機関に対して、疑問に思うことが2つあります。ひとつは、中小企業において会社とオーナーの勘定を明確に分離する―ヒト・モノ・カネを分けることです。ある会社での実例ですが、オーナーが会社に貸し付けたお金をオーナーへ返したところ、金融機関から「この行為は資本の返還とみる」と判断された結果、資本が薄まり、融資が受けられないという事態に陥ったことがありました。どの金融機関もこういった見方をするのでしょうか。
もうひとつは、決算で赤字を計上した際、金融機関によって受け止め方がまちまちなので、どのように対応すれば良いのかが気になります。
青木 金融検査マニュアルによれば、代表者勘定で貸付をしている際、その同等の金融資産を代表者が所有しており、返済を受けなくても良い場合は自己資本とみなすとされています。それ以外はケース・バイ・ケースです。
金融機関には格付の算出および債務者区分があり、決算データをシステムに入力するだけで、格付が出てきます。金融機関が導入している格付システムにもよりますが、赤字であれば、自動的に算出される格付は下がることが一般的です。決算書を良く見せるために粉飾するのは論外ですが、システム上の粉飾チェックに見事に引っかかります。
大庭 本来、会社とオーナーの勘定を分離することは良いと思いますが、あくまでも金融機関サイドから見れば、中小企業の場合は一体とみなしたいのだと思います。もちろん、ある程度の規模になれば、完全に分離すべきだと思いますが。
山下 私のスタンスとしては分離すべきだと思いますが、2期、3期連続赤字でも借入が可能なケースも見かけます。私は決算書を作る立場ですが、会計基準内で合法的に決算書をうまく作成していますので、融資が断られたことは少ないです。
―金融コンサルをしていると、たまたま赤字が出たとき、今後どのような計画をして改善していくか説明できる事業計画を金融機関に伝えることを重点に置いています。しかし、現在の金融機関側は、そこまで踏み込んだアドバイスが非常に少ないように感じます。
大庭 毎期、企業が確実に利益を出し続けていれば問題ありませんが、個人の信用―この経営者はどういう人か、を判断しづらくなっています。その結果、財務内容など客観的事実のみでの判断になってしまいがちです。
それと、金融機関側が短期での取引と考え過ぎて、長い視点での取引とは考えにくいのではないでしょうか。
青木 私のビジネスモデルの根底は、金融機関との長期的持続的信頼関係の構築としています。信用・信頼という言葉は抽象的な言葉で、分析の対象として取り扱うことが前提として難しいのです。信頼や信用を具現化するためには、金融機関が求めるものと企業側の情報開示の差を最小化することが必要と考えます。
金利に関しても、金融機関に適正金利を取っていただきたいですし、債務者に見合った適正金利を取ることで、追加融資の可能性が増すと考えるからです。
高木 新商品開発や新たな取り組みを金融機関へ説明しても、先方に知識がないため、取り組みがうまく伝わらないことが多いです。もう少し知識を増やしてもらいたいですね。
―たしかに、それぞれの業界の専門知識が不足しているのは事実ですね。
青木 おおむねほとんどの金融機関において、専門分野を持った医療チームはいますが、それ以外の専門分野に秀でているスタッフおよび専門部署は設けられていないことが一般的です。銀行員は、業界のプロではないのです。私は銀行員時代、担当している顧客へは「工場を見せてほしい」、「商流を教えてほしい」などと依頼していました。今はそんなガツガツした行員が少ない気がします。ただ、日々の業務が多忙を極めるなか、そこまでするのは難しいのかもしれません。
広瀬 顧客と深く付き合わないのは、金融機関の上層部の考え方を反映しているのですかね。
青木 金融庁は、地方銀行や信用金庫に対してリレーションシップバンキングを推奨し、お客さんと金融機関との情報格差をなくすような指導をしています。また、金融機関の本部もそれを推奨しています。
しかし、実際にはできていません。企業ごとの個別の技術やサービスを評価できる行員がいませんし、融資の審査セクションにとっては、それはほとんど融資をする際には関係がありません。企業の個別の技術やビジネスは、あくまでも審査プロセスの一部であって、補完的要素でしかないのです。ここが、間接金融のジレンマであるとも考えます。
大庭 そうなることの原因のひとつは、行員がやるべき業務が多すぎるのです。
青木 提案営業が求められていますが、信用保証協会の緊急保証制度があります。この制度では、「責任共有制度の対象外で、銀行は取りっぱぐれがない。だからドンドン営業せよ」となっていることが一般的です。したがって、顧客が望む額を保証協会と交渉するのです。そうすると、行員は「これが顧客が望んでいる提案営業のレベルである」と勘違いしています。「モラトリアム法案ができれば、主体的にリスケの提案を行なう」「前提として制度設計ありきで、制度・政策に則った貸出や条件変更案を呈示する」―これが今の行員のレベルです。
このようなことをしていると、今後景気が回復し、企業に増加運転資金などの前向きな資金が必要になった際、銀行は融資するのに難しい環境ができあがっています。「すでに担保は渡している」、「信用保証協会は目一杯利用している」、「元本の返済猶予を行なっている」...このような状況ですので。
【文・構成:新田 祐介】
※高木氏の「高」は(はしごだか)