中小企業が抱える問題を提起 金融機関に求めるもの
―金融円滑化法案についてですが、猶予が切れたら倒産が増えるのではないかと懸念しています。私はこの法律自体に反対の立場ですが、皆さんはいかがでしょうか。この法律は、住宅ローンを抱えている一般個人が使うのが良いと思いますが。
青木 私は中立的立場です。
大庭 私は、今の返済が厳しい企業はやった方が良いと思います。たしかに、この条件変更を実行すればニューマネーは融資してもらえないですが、現状を見ればやるしかないのではないでしょうか。
広瀬 私の顧客には実施したところはないですが、やはり事業の先行きをどうするのかを考えるきっかけにはなりますね。
山下 私の顧客にもないです。以前、リスケの相談は受けたことはあります。そういった企業は払えないからリスケをするので、その時点で金融機関との信頼関係はもうなくなっているように見えますね。
―さて来年、北九州銀行が設立されますが、どのように感じておられますか。
広瀬 地元ですから、率直にうれしいです。10年くらい前ですが、日銀が小樽と北九州両支店を閉めるという話が出ました。閉鎖の理由としては、支店に対する需要とかいろいろありましたが、北九州の場合、本店所在地を置く銀行がないということも取りざたされましたので、これで日銀が北九州からなくなることはないでしょう。
大庭 既存の支店があり、新たに出店することではないですが、地域内に積極的な金融機関が現れることで良い影響が出ることは間違いないでしょう。
青木 3月の発表後、金融機関各行は北九州地区における組織改革を加速させ、金利競争がより顕著となりました。もともと低金利の福岡や北九州地区で、これ以上の低金利競争が起こることが良いかどうか疑問があります。長期的な視点に立てば、銀行は適正金利を取って、安定的に資金供給を行なうことが求められていると考えます。
高木 私は福岡で事業をしていますので、北九州銀行の件は直接的には関係ありません。しかし、銀行としてある程度の金利を確保することは必要と思います。低金利の争いよりも、行員が業界の専門知識を持って融資をする新たなモデルを構築していただきたいですね。
山下 福岡からの視点で見れば、北九州銀行はブランドイメージ的にどこまで魅力的に映るかわからない状況です。
―北九州は製造業の街ですが、最近の円高についてはいかがでしょうか。
広瀬 影響については、ほとんど聞こえてきません。リーマン・ショック後、安川電機や新日鉄は休みを増やしたりしたようですが、最近の円高の影響は感じませんね。むしろ、最近日本電産が海外でM&Aをしたような、円高だからこそできることをもっとやるべきでしょう。
高木 弊社のように、輸入を行なっている業者が一番恩恵を受けるのは事実です。
大庭 この業界そのものは国内の資源を使用し、国内へ販売するので、直接の影響はありません。しかし、地場企業の設備投資意欲は減退します。
―日頃、金融機関に対して感じていることなど、忌憚のないご意見をお聞かせください。
広瀬 銀行のコンサル能力については思うところがあります。それぞれ努力されているとは思いますが、企業側からの期待にはまだ応えていないように感じます。
大庭 金融機関はそれぞれの企業との取引があるわけです。当然、それぞれの企業情報―技術やサービスを知っていますので、企業と企業のマッチングができるはずです。そうすることで、新たな仕事が生まれ、そこに資金の需要が発生するのです。こういったことをしていただければ、金融機関としての役割を消化できると思います。
―行員も目先の営業数字に追われて、コンサルできていないのでしょうね。
大庭 たしかに市場はしぼんでいますが、自然にライバル会社が少なくなっています。生き残るためには、考え方や見方を変えることが必要で、時代や景気のせいにばかりしていられません。やることはたくさんあります。
青木 今と昔の行員を比較すると、「信用リスク管理の高度化」というテーマに基づき、システムの発達などの影響で、今の行員の方が財務分析能力・財務審査能力は優れていると思います。一方で、泥臭さというか、目利き力は低下しているのが現状でしょう。システム開発への投資により、審査・分析レベルの画一化を図ることに人材育成の主眼を置くことが、現在の中小企業の銀行に求めるニーズではないと考えます。
金融円滑化法案については賛否両論あるにせよ、今の状況のなかで国が政策として枠組みを作るのは、これが制度設計上の限界であると思います。これを活用して再生できるかどうかは、経営改善計画書を履行できるかどうかであり、この法案は使い方によっては、企業のビタミン剤にもモルヒネにもなると考えます。これが、私が同法には「中立的立場である」と申し上げた理由です。
間接金融は、さまざまな構造的問題を抱えていることは事実です。企業は個別の技術やサービスを評価してほしいのですが、金融機関は保全を考えます。そこには溝があります。ベンチャーキャピタルなどの直接金融に頼るには規模が小さいなど、課題は多いです。
実際に中小企業が求めているものとは、間接金融でもなく、直接金融でもない、第三の金融なのかなと思います。それが何であるかはまだわかりませんが。
山下 正直に言えば、現状として企業が金融機関に事業的なコンサルまでを、どの程度求めているかがわからないですね。
大庭 企業は求めていますよ。金融機関から紹介の電話一本あれば、「お会いしてみようか」という気持ちになります。金融機関や税理士の方にそれをお願いしたいですね。せっかく近くにいろいろな商品やサービスがあるのですから、それが上手くマッチングする術がほしいですね。
―やはり中小企業が望んでいるのはその部分なのでしょうね。本日は長時間にわたり、ありがとうございました。
<参加者> | |||
アジア太平洋マネジメント 代表 青木 道生 氏 |
(株)コーリンプロジェクト 代表取締役 高木 晃 氏 |
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広瀬公認会計士事務所 所長 広瀬 隆明 氏 |
山下直勝税理士事務所 所長 山下 直勝 氏 |
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福岡スプリットン工業(株) 代表取締役会長・C.E.O. 大庭 和巳 氏 |
【文・構成:新田 祐介】
※高木氏の「高」は(はしごだか)