<介護保険適用か否か>
使い捨てのオムツから車イスや床ずれ防止用マットなどの数万~数十万円する高価なものまで、福祉用具およびメーカーはあまたある。これらの商品を広く認知してもらう一手段が、協会に手数料を払い、協会が発行する『福祉用具一覧』(一覧)に登録することだ。その数は現時点で約530社、6,400点におよんでいる。
実は「福祉用具」と言われるものは、誰が製造・販売しようが規制はない。売れるか売れないかは、メーカー次第。協会の『一覧』に載ったからといって、本来は特別に権威を持つものではないのである。
しかし、介護保険の対象になる車イスや床ずれマットなど高額な用具となれば、話は別だ。介護保険は、国の制度として医療、介護施設から在宅まで幅広く利用されているが、「要介護」と認定された被介護者(患者)は、先のような高額な福祉用具も介護保険で利用することができる。腰掛け便座や簡易浴槽など他人が使い回しできないものは購入費が、車イスや床ずれ防止用具など洗浄して使い回し可能な用具はその貸与(レンタル)費が、それぞれ保険適用対象となる。
「8年前に開発した『ホットケア』は、予防は当然、床ずれによる炎症を治療する効果もあり、米国医療医薬食品局(FDA)の認可登録も得ました」と言う宮内氏は、自信を持って大阪市内の区および近郊市町村に働きかけた。ところが、どこでも断られてしまう。「貸与対象外の用具」というのがその理由で、さらに指摘されたのが協会の『一覧』に載っていないことだった。というのも、自治体の多くが協会の『一覧』を参考に保険適用対象用具をチェックしているからだ。そこで宮内氏は、04年に協会に手数料を払って『一覧』に載せてもらうが、「貸与」対象にはならないことを知らされる。理由は、「ホットケア」は厚労省の通達、告示、いわばガイドラインから外れた用具だったからだ。
「ホットケア」はブラックシリカ(黒鉛珪石)を粉状にしてマットに仕上げた、厚さ0.5㎝の薄いもの。ところが、厚労省が貸与対象に指定しているのは、「エアマット」または水やオイル、ウレタンなど、「体位変換可能なマット」だ。そのため、紆余曲折を経て宮内氏が協会の貸与対象製品のリスト入りしたのは、「ホットケア」の下にあえて必要もないウレタンマットを装着したからだった。しかし、貸与対象になっても問題は解決しなかった。
介護保険を適用するか否かは、居住自治体が決定する。それには国家資格者である介護支援専門員(ケアマネージャー)と被介護者が相談して、ケアプランを作成しなければならない。そこで問題になるのが、貸与対象用具をレンタルする貸与サービス事業者だ。各区市町村には指定業者がいるが、彼ら事業者が扱っていない製品は使えない。「他の自治体の事業者でも可能ですが、あまりにも遠距離だと介護サービス上の不都合が起きかねない」(東京・港区役所)とかで、ケアプランそのものが認められない可能性大だ。そこで、冒頭の協会に対する質問状なのである。
<守られる既得権者>
理事長名での協会回答を要約すれば、質問1には、「新規登録製品は、毎年6月に開かれる専門家による検討委員会にまだかかっていない」。質問2には、「公平・中立に事業を実施していて、メホールケア社への営業妨害や一部企業の利益を図っている事実はない」。質問3には、「企業からの出向職員は3名だが、氏名、社名は個人情報で回答できない」。質問4には、「重要な事態と認識しているが、事故情報の収集、分析はしていない」、というものだ。
この回答内容では、宮内氏が「電話連絡では変更届をすぐにも受理しそうな対応だったのに、これでは来年6月まで待てということ。それでいて、従来商品は貸与対象用具から外したのは解せない」と不信感を募らせるのも無理はない。客観的に見れば、抹消申請で旧製品はすぐ削除しながら、新規申請は先送りする。言葉は悪いが、宮内氏は「ハメられた」も同然だ。
協会側は「たしかに自治体からさまざまな問い合わせがありますが、私たちはあくまでも情報提供者であり、最終的な決定権者は自治体です」(企画課)と抗弁しつつ、「メホールケア社にまだ旧製品があれば、貸与対象として再度載せることもできます」(同課)と言うが、いかにも姑息だ。
「これまで大手ベッドメーカーからは、『おたくのマットはどこのレンタル業者も使わない』とか、『四国はウチのナワバリだ』などと理不尽なことを何度も言われましたが、かねてより進めてきた大阪大医学部関連施設での臨床試験がまとまり、今春にパンフやHPで発表しました。医学的、科学的に根拠がないエアマット業界はもとより、理屈らしきものを与えて業界と密着している褥瘡学会は、ますます当社を目の敵にするでしょう」(宮内氏)。
最終的には法律の問題だが、介護保険を担当する厚労省老健局によれば対象種目については3年に1度見直しているというが、基本理念として該当するのは「流通量が多いもの、多用されているもの」(振興課)だという。これでは、既得権者がいつまでも守られ、独創的かつ安価な製品を開発しても報われない。介護されているのは、患者よりも役人OBや大手メーカー、学会であり、「介護保険制度なんて止めてしまえ」という声が上がっても不思議はない。
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら