<再生ファンドは方向性提示のみ>
大分の名門だけでなく、九州のゼネコンの雄である(株)さとうベネックは現在再生中である。2010年6月期において売上高(完工高)120億円、当期利益4億円を計上した。関係者には「凄いな」とどよめきの声があがった。紫原利典社長はいたって謙虚だ。「たまたま偶然が重なった結果です。次期の決算が正念場、いまが試練のときでしょう」と解説してくれる。たしかに、ここに至る道程は至難の連続であった。
さとうベネックは内整理に踏み切った。そこに再生ファンドのネクスト・キャピタル・パートナーズ(株)が登場してきた。資本金・資本準備金合わせて5億円を出資してオーナーになった。そこで早速、旧経営幹部を退陣させて新体制を固めた。経営幹部の大半は社内からの生え抜きからの抜擢であった。ところが再建計画が思うように進まない。責任の詰めで腹を切ってか切らされてかは判明しないが、総退陣をはかった。再建行為は血反吐を伴うものなのだ。
次の紫原社長を筆頭にした経営執行部は、社内最後の人材を選りすぐった。今度失敗したら「破産の道しかない」という危機感が、残された社員たちに共有されたから必死であった。また、ネクスト社のフォローも的確になってきた。
さとうベネックに派遣されている那須取締役が説明する。「我々自身は建設業の経営をできない。再生ファンド側ができることは、(1)方向性を明示すること、(2)キャッシュフローを重視した受注のチェック(立替工事の戒め)、(3)与信管理、(4)採算性くらいです。あとはさとうベネックの社員の皆さんたちに頑張ってもらうしかありません。来期が勝負です」。
<社員の気の持ちかたで 結果は無限>
「前の先輩たちの経営指導部の行き詰まりは、まだまだ社員たちがバブル時代に酔いしれていたことが原因です。先輩たちだけに非があるのでなく、我々下にいた者たちもそれ相応の責任があります。『まだまだデベの仕事もあるから大丈夫』という意識を持っていました。2008年9月のリーマン・ショックで、さすがに『新しい仕事を取らないと食っていけない』と悲壮感を抱き『潰れれば行くところがない』という危機認識が浸透したのです。そこで、マンション受注には頼らずに、『160人体制で120億円の仕事を完遂』という方針の大枠を提起しました」と紫原社長は経緯を語ってくれた。
「私自身に強力な指導力があるわけでありません。すべての数字を公開しようと決意した次第です」と本音を披露する。「儲かるも儲からないも、貴方がた一人ひとりにかかっているのですよ」と問いかけた。数字を理解するためには、ある程度の学習も大切だ。学習を積み上げたおかげで社員の大半はP/Lは理解するようになった。B/Sはただいま教育中である。
社員たちが会社の置かれた経営状況を数字で把握できるようになれば、動き方にもムダがなくなる。「自分がやるしかないのだ」という意識を持てば甘えもなくなる。「意識の持ち方で、人間という存在は無限の能力を発揮するものだと貴重な勉強させてもらいました」と紫原社長は感謝する。2010年6月期の数字は、社員全員の自立意識化の塊の証なのだ。
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