<財務大臣も太鼓判?>
16日、福岡市内、11月14日投開票の福岡市長選で再選を目指す現職・吉田宏氏(54)の街頭演説が行なわれた。応援に駆けつけ演説を行なったのは、民主党・野田佳彦財務大臣だ。
「1,200億円減らしたことは経営力がある」「1,200億円は1万円札を積み上げると1200メートルにもなる」「1,200億円は12tの重さがある」「毎日1,000万円使っても30年間もつ」などと、野田大臣は、吉田氏が金科玉条のごとく誇る「市債残高1,200億円の削減」を盛んにほめちぎった。
さて、この"1,200億円の借金返済"が、そこまで強調するほど吉田氏の実績と言えるものなのだろうか――。
アイランドシティ事業が福岡市長選の選挙争点として注目を集めている。継続か中止か、いずれにしても同事業と切り離せないのが、2兆5,067億円(2010年度末)の市債残高を抱える福岡市財政の問題だ。
この点において吉田氏は、現在配布されているビラに「4年間で1,200億円以上の負債を削減した」ことを功績としてアピールしている。民主党市議団が行なった吉田市政総括も同様。しかし、この"功績"に対し、福岡市政を詳しく知る者は必ずと言っていいほど否定的だ。
そもそも山崎前市政で市債残高削減のスキーム(枠組みを持った計画)はできていた。
<市債削減は前市政の踏襲>
市の会計には大きく分けて一般会計、企業会計、特別会計の3つがある。一般会計は、保健福祉、教育、土木、商工、都市計画など、広く市民に関わる会計。生活保護費、こども手当などを含む扶助費、人件費、公債費も含まれる。
一方、特別会計は、後期高齢者医療、国民健康保険、介護保険、港湾整備、市営競艇など。企業会計は、病院、下水道、水道、高速鉄道(地下鉄)などの事業である。
以下、図1の表を参照。
2004年度の一般会計を例にとると、市債を返済した額(償還高)は1,076億円。このうち元金は755億円。一方、同年度の借入高は908億円のため、結果的にここで153億円の負債(元金-借入高)が増えた。同様に特別会計281億円、企業会計66億円の負債増加。市債管理基金からの満期一時積立金による償還分11億円を引いて、計609億円の負債増となっていた。
しかし、05年度、山崎前市政は財政健全化政策により一般会計予算を見直し、元金739億円を下回る借入高712億円に抑え、27億円の市債残高を削減した。さらに06年度では、借入高690億円で元金775億円から85億円の削減。そして同年度は、特別会計161億円、企業会計135億円の削減があり、合計で『約381億円の市債残高』が削減された。
グラフが指し示すのは、まず、市債残高が削減へ向かう転換点が05年度であったこと。そして、市債削減高は06年度以降、ほぼ横ばいであることである。
一般会計の借入高は、08年度まで減少を続けていくが、09年度でまた増加。さらに港湾整備事業、土地区画整理事業などが含まれる特別会計の借入高は増えており、その分を企業会計の借入高の減少が補ったかたちとなっている。企業会計の事業内訳は、病院、下水道、水道、高速鉄道(地下鉄)であり、事業の終了とともに減少する。
実際のところ、福岡市の市債残高をさかのぼって見てみれば、「1,200億円の借金返済が吉田氏の功績」とは言い難く、その実態は前市政の財政健全化政策の踏襲である。
地方自治体の起債を国の赤字国債発行と同列に扱う論調にも注意すべきだろう。そもそも地方自治体の起債は総務大臣または都道県知事の許可が必要。許可を得るには借入金の目的が問われる。交通インフラ、公共施設など、これらは市の資産であり、教育や福祉の費用は市民生活に資するものである。
決して"数字が減ればいい"というものではない。必要な投資は行ないつつ残高を削減していくという工夫こそが地方自治体のリーダーに求められるのだ。
【山下 康太】
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