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経済小説

大倉マン奮闘記・英国編(3)~さらば第2の故郷
経済小説
2010年10月18日 10:21
前回までのあらすじ
 イラン・イラク戦争下で、対イラン・ビジネスの再構築に携わった御厨。暗躍するフィクサーとの商談、厳戒態勢のイランへの派遣など、さまざまな危険を乗り越え成功への軌道に乗せることにこぎつけた。

<言葉と料理の壁>

当時の風景 イラン・ビジネスがひと段落し、御厨は新たなビジネスに着手することになった。当時、英国には、連続押し出し式ケーブル製造機を開発しているメーカーがあった。これは、光ファイバーや海底通信設備にも応用できると言われていたもので、日本の大手企業も強い興味を持ち、年に何度も技術者数名を派遣していた。
 御厨は通訳として、その都度同行することになった。しかし、製品はまだ開発途上であり、何度も試作品を作るが失敗の連続だった。「私も色々な機械の通訳をして来たが、技術がほとんど確立されていない手探り状態の機械だったので非常に難しかった」と、御厨は回顧する。そうした苦労の甲斐もあってか、最終的には、数社の日本企業が購入することになった。御厨が通信技術の日本への普及に貢献したといっても過言ではないだろう。

 ビジネスにおいて苦労したのは言葉だけではなかった。「英国の料理は、フランスやイタリアの料理と比較するとあまり美味ではない。これは英国人自身も認めています。代表的な料理としてはローストビーフやステーキといったところですが...」(御厨)。接待の場においても、いろいろと苦労があったことは想像に難くない。もっとも最近では、フランス料理や地中海料理などの外国料理の影響を受けるレストランも増えているそうだ。

 御厨のオススメは、レベルが高い中華料理とインド料理。「本国以外で世界の中華料理やインド料理を食して来たが英国、特にロンドンが最高ではないかと思う。ロンドンを訪れる際は是非、ソーホー地区の中華レストランで飲茶を食されん事を」(御厨)。
 ちなみに御厨によると、インドが発祥とされるカレーは、大航海時代以降、世界の海を征した大英帝国が植民地の料理を取り入れることで、世界にカレーを広げたという。「日本でも人気のある『横須賀海軍カレー』はイギリス海軍の軍隊食でありました。このような歴史をふまえても、英国ではインド料理もオススメです」(御厨)。

 約3年の駐在期間が終わり、御厨は日本に帰国することになった。第2の故郷と思っている英国を離れるのは非常に淋しい思いであったという。
 英国を去るにあたって、学生時代、世界を放浪し、ロンドンに滞在していた頃の記憶が走馬灯のように駆け巡った。あの頃の経験があってこそ今の自分がある――。御厨は商社マンとなるキッカケは、その世界放浪にあったと振り返る。

(つづく)

【文・構成:山下 康太】

<プロフィール>
御厨 幸弘 (みくりや ゆきひろ)御厨 幸弘 (みくりや ゆきひろ)
1952年9月4日佐賀県生まれ。71年、佐賀県立佐賀北高校卒。77年、東京経済大学経営学部を卒業し、大倉商事(株)へ入社。数々の海外駐在勤務を経験する。93年、同社を退社し、(株)岩田屋の子会社にあたるiDSトレーディング(株)へ入社。95年、同社を退社し、96年、(株)ミックコーポレーションを設立。現在に至る。


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