21日、福岡市議会・決算特別委員会の総会質疑で、(有)愛州産業(福岡市中央区)の処分場で処分している有害物質フェロシルトについての質問が行なわれた。質問に立ったのは、西区選出の笠康雄市議(みらい福岡・幹事長)。
フェロシルトとは、白色顔料の酸化チタンを作る過程で生じた廃硫酸を原料に製造されたもの。2001年8月から(株)石原産業が土壌埋め戻し材として販売。03年には三重県のリサイクル製品に認定されたことで、岐阜県や愛知県などでの埋め立てに使用された。しかし、05年に環境基準を超える六価クロムやフッ素、放射性物質のウランなどが含まれていることが判明し、産業廃棄物と判断されたことから、このフェロシルトを使った各自治体は撤去命令を出した。
ちなみに、この有害物質フェロシルトを販売した石原産業は、四日市ぜんそくの被告の1社として有罪にもなっている。そして、愛州産業は"福岡市の許可"を得て、フェロシルトが含まれる産業廃棄物の最終処分が行っている。
質疑応答のなかで、市環境局は福岡に持ち込まれているフェロシルトの量を答えた。
石原産業がフェロシルトの撤去命令を受けて、回収した総量は178万トン。フェロシルトの処分は全国各地で行われているが、福岡市へは実に全体の19.7%にあたる35万トンが運ばれていた。さらに今後は3万トン運ばれてくるという。市環境局は、「フェロシルトは国が定めた環境基準をクリアしているので、愛州産業での最終処分を中止にすることはできない」と説明した。しかし、問題の本質は、その処分を行なっている場所である。
笠市議は「処分場の近くには野菜や葉タバコの畑があるが、それらへの環境調査はしているのか」と質問を重ねた。それに対し、同局は「野菜などへの環境調査は行なっていない」と回答した。
笠市議の口調は強くなる。「福岡は商業都市である。まして、最終処分場の周辺は自然豊かな土地で育った食べ物が売り。農作物の有害物質(残留農薬)含有量も厳しく問われている」としたうえで、処分場から粉じんが降ってきている実情や農作物への風評被害の懸念を指摘した。
厚生労働省が定めた農作物における残留農薬基準0.01ppm(1ppmは100万分の1kgに相当)。一方、環境省が産廃処理で定めた環境基準は1リットルあたり0.33mg。ふたつの基準で実に33倍の開きがあることも笠市議によれば「地元の住民は知らない」という。
笠市議の指摘の通り、最終処分場周辺地域の特性をふまえると、環境基準だけで「商業都市・福岡」へフェロシルトの持ち込みを許可した市環境局の対応には問題がある。そして、笠市議は「"市民のために何もしない"環境局に予算は要らない」と吉田宏福岡市長に詰め寄った。しかし、吉田市長は「きちんと取り組まなければいけない」と、小声ではっきりとしない見解を述べただけ。ことの重大性を理解しているのか実に疑わしいものだった。
責任を放棄し、結果、市民を犠牲にする行政がまかり通っていいものだろうか。少なくとも国の基準はそれぞれの地域の特性までを細かく考慮したものとは言い難く、それを補うのが地方自治体の役目である。事実上、「何もしない行政組織」のままでは、今後、本格的に進むであろう地方分権(道州制)下で、福岡市が取り残されていく可能性は高い。
※フェロシルトに含まれる「六価クロム」とは、酸化数が六のクロムを含む化合物・イオン。強い酸化剤で金属メッキや皮なめしなどに使用されてきたが、皮膚に触れると潰瘍(かいよう)を起こし、体内に入れば肝臓障害や肺ガンなどを起こすことから使用規制がされている。
【行政取材班】
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