先日、老夫婦から「愛犬に相続させたいのですが、できますか?」といった相談を受けました。「えっ、マジかよ」と自分の耳を疑いましたが、老夫婦の表情は真剣そのものでした。実は、この老夫婦には子どもさんがいなくて30代のころから犬を我が子のようにして育てて、死んでは庭に埋葬し、又、子犬を飼って育てるといった生活を長年続けておられました。ご夫婦で互いに自分名義の財産を相続させるけれども、もし、妻(夫)が私より先に他界したら、私の財産を愛犬に相続させたいといったご相談でした。心情を察するあまり、「できます。ご心配無く。なんだったら、うちで引き取りましょう!」と言ってあげたかったのですが、答えはどうでしょうか。
この相談について「相続」させられるかと言えば「NO」ですが、「負担付遺贈」という方法をとれば、老夫婦の意志が叶えられるのです。
それでは、何故、ポチに相続ができなくて、負担付遺贈であればできるのでしょうか。検証してみたいと思います。
民法の第5編には相続人の範囲が規定されており、(1)配偶者、(2)子〔実子、養子(人数制限あり)の他、なんと胎児も含まれます〕、(3)直系尊属、(4)兄弟姉妹となっています。また、子が先に死亡している場合はその子(孫)が代襲相続人になります。もっとも、相続人間でも相続人になる優先順位があります。ですから、犬のポチは上記のどれにも該当しませんから、相続人になることができません。
しかし、負担付遺贈であれば、老夫婦はポチに財産を遺してあげることができます。
そもそも、負担付遺贈とは何なのか。例えば、「私の財産を姪の花子に遺贈する。その代わり、花子は○○○をして下さい。」と、読んで字の如くです。
上記の老夫婦のケースでは、「私の財産の全てを姪の花子(仮名)に遺贈する。その代わり、預貯金の中からポチのえさを買ってあげてください。散歩は毎日連れて行ってあげてください。そして、ポチが生涯幸せに過ごせるよう、今までどおり可愛がってください。」といった形式で遺言書を公正証書で作成しました。
そもそもポチに預貯金の管理をする能力はありませんので、老夫婦は自分達と同じくらいポチを可愛がっている姪の花子さんにポチのことを負担付遺贈という形で託したのです。
このようにして、老夫婦が他界した後のポチに対する心配事は解消され、とても喜んでおられました。
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