パ・リーグのクライマックスシリーズは、ファンにとって残念な結果に終わってしまった。中洲においても、日本シリーズ進出に期待し、その盛り上がりに便乗しようとした店も少なくはないだろう。今回ネタになるお店は、そのうちのひとつである。
劇的なリーグ優勝に触発されてか、あるスナックのオーナーがひらめいた。考えたのは、店内にあるカラオケ専用でしか使っていないモニターで、クライマックスシリーズの試合を放映し、集客効果を得ようという思惑である。
これはその店初の試みであった。普段、そのモニターは、歌に応じて女の子が服を脱ぐという独特の採点システムで活躍していた。客のウケもよく、その店に限らずカラオケがあるところでは、みなさん張り切ってこのシステムにチャレンジしている。小生もやってみたことがあるが、歌の善し悪しよりも気合でなんとかなる仕組みのようだ。
話を元に戻そう。その店の店長からテレビ回線をひくという話を聞いた小生。すぐに、試合をやっている時間と店の営業時間がかぶらないのではないか、とアドバイスした。その店の開店時間は8時。野球の試合はナイターでも午後6時開始である。店長は「確かにそうですね」と、オーナーに忠告すると言っていたが、どうやら決行してしまったようだ。
7‐0というファンの悲鳴が福岡中に響き渡った最後の試合。その店では、開店準備のため夕方から出勤した店長と酒の配達にきた酒屋のアルバイトが、男ふたりで野球を見ていたという。4点目が入った時点で酒屋は退出。ひとり残された店長は、試合を流しっぱなしにして、店の準備を始めた。
開店後の午後8時30分過ぎ、店のドアが開く。あわててモニターを切った店長。入ってきたのは、ひさしぶりに顔を見せた常連さん。開口一番、「ホークスどうなっとうと?」と、店長に尋ねてきた。
店長「すいません。ウチはテレビ映らないんですよ~」。
最終戦のホークス打撃陣と同様に不振に終わってしまったその店のナイター中継企画。店長は「やけになって自分がであい橋から飛び込もうかと思いましたよ」とグチをこぼす。もっともそのであい橋は、警察官が数メートル間隔で警備にあたるという厳戒体制がしかれていたとのこと。
ホークスの悲劇から数日後、そのエピソードを聞いて苦笑していた小生。その横では、団体客のオヤジ連中が、モニターのなかの若い女性を脱がそうと躍起になって十八番を披露していた。
長丘 萬月(ながおか まんげつ) 1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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