ところが、菅直人首相は考えを二転三転したあげく、国会での審議日程を先送りし、ブリュッセルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)に出席しました。こじれっぱなしの日中関係を打開させたいと、日本の立場を国際社会に訴えるため、アジアやヨーロッパの首相と直に話し合うのが目的のはずでした。おかしなことに、事前の説明では日中首脳会談は予定されていませんでした。ところが、想定外の日中首脳会談が実現。外務省によれば、現地での夕食会終了後、菅首相と温首相が「ほぼ同じ方向を歩いていたなかで、自然な形で」立ち話会談に至ったというのです。恋愛ドラマならいざ知らず、外交上ありえない話です。
問題は、温首相には日本語通訳が同席していましたが、菅首相には英語の通訳しか同行していなかったことです。これでは菅首相の発言がどこまで正確に温首相に伝わったのか疑問が残ります。しかも、両首相は何を議論したのでしょうか。外務省は「外交上のやりとり」を理由に、詳細を明かそうとしません。菅首相は尖閣諸島の問題や、フジタ社員の拘束について本気で抗議し解決を働きかけたのでしょうか。
10月5、6日の自民党外交部会で、小生はさまざまな質問をしましたが、外務省大臣から「菅首相のボロを隠すように」との厳命が出ているせいか、無意味な答弁に終始するだけでした。この間、中国は内外のメディアを総動員し、温首相の「尖閣諸島(中国名・釣魚島)は古来より中国の領土」という主張を裏付けようとしています。一方、言ったか言わなかったかはっきりしない菅首相の反論は一切無視されています。これではわざわざ国会を中断して欧州に出かけた意味などまったくありません。一事が万事で、国家観や自主防衛の発想の欠如している菅政権。このままでは日本の前途は風前の灯火と言わざるをえません。気づいたら「日本は中国の一部になっていた」ということにならないよう、国民の生命、財産に責任をもつ政治を心がけるべきなのです。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。
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