9月30日、福岡工業大学・福岡工業大学短期大学部の前学長だった山藤馨氏が退任し、10月1日より新しい学長に下村輝夫氏が就任した。前学長の山藤氏は「『情報・環境・モノづくり』の科学技術分野で九州№1の教育拠点実現」を目指していた。同大学は入学志願者が4年連続増加し、就職内定率も90%以上を維持している。昨今、少子化や学生の就職難が進み、大学側・学生にとってはとても厳しい時代になっている。この時代に、同大学はどのようにして入学志願者、就職内定率を上げたのか。
<充実した教育改革と就職支援が評価される>
現在、少子高齢化が進む日本で、各大学が学生の定員確保に苦戦している。学生が確保できず、大学同士が合併することもある。このような厳しい状況のなか、福岡工業大学は06年度から4年連続で入学志願者が増加。10年度は入学定員が830名のなか、入学志望者が4,519名、入学者は1,086名であった。入学志願者が増加する結果になったのは、なぜだろうか。それは、同大学の丁寧な教育の取り組みや就職支援がしっかり評価されているからである。その内容について見てみよう。
前学長の山藤馨氏が行なってきた学校運営は、たしかな成果と評価を受けてきた。
それはまず、教育改革への取り組みである。同大学ではカリキュラムの有効性を高めるため、全学的にさまざまな工夫を凝らし教育内容と方法を改善してきた。
主なものとしては、入学前教育がある。ここでは、数学・物理などの基礎科目の添削指導をほとんどの学科で実施する。一部の学科ではラジオ製作、読書感想文などの学習を導入し、さらにWEBなどを活用した新たな教育方法を実行している。また、入学式前後にオリエンテーションを開催し、新入生同士の交流を促すことなどによって、不安を解消し、高校生から大学生へ円滑に移行するよう配慮している。
入学してからは、学生に動機づけ教育―創成型教育を行なっている。専門教育領域に対する興味、関心、学習意欲を引き出す。そのなかでさらに、「大学で取得すること」と「実社会で求められる能力」の整合を強化するため、各学科の教育内容に応じてロボット製作、ロボット制御、電気自動車製作、エンジン分解・組立、最先端分析機器を用いた実験ISO14001(環境ISO)認証継続活動による学外での環境調査などの実体験教育などを拡大している。
また、同大学は独自教科書・教材の開発をしている。昨今、大学生が低学力・低意欲化の傾向にある。こうしたなか、同大学の情報教育など特色ある教育の有効性をいっそう高めるため、学生の学力に適合した同大学独自の教科書や教材が必要であると認識してその開発と見直しを重ねている。
次に、コミュニケーション・プレゼンテーション教育。このコミュニケーション・プレゼンテーション能力について、より意欲的で実践的な学習を促すため、学科の教育内容と関係の深い社会問題・事件などをテーマに、事例研究発表、学生シンポジウム、ディベート大会などを行なっている。そのなかで、とくに電気工学科コミュニケーション教育は、九州工学教育協会において09年度協会賞を受賞するなど、外部から高い評価を受けている。このことから、今後の進展に大きな期待が寄せられている。
その一方で、学生や周りの環境だけではなく、FD研修会という教授能力・技能の向上を目的とする活動も行なっている。授業公開、授業討論会、学生の授業評価アンケート公開や報告会などが主な活動内容である。学生への授業評価は、WEBを通じてアンケート調査を行ない、リアルタイムで教員が確認し授業改善に役立てるシステムを導入している。また、教育改善に貢献した教員の表彰制度を創設し、有効な教授法の学内展開を図っている。
<フレッシュマンスクールとカウンセリング>
正規教育課程での教育内容と方法の改善に加えて、学習支援および学生生活支援をさらに拡大・充実させた。そのなかで昨今、学生の学力低下が進んでいる問題に対応するため、同大学では1年次においてフレッシュマンスクールを開設し、基礎学力とコミュニケーション能力育成の取り組みを強化した。
プログラムの中身は2つ。その1つは「集合学習」である。ここでは3つのスキルを伸ばすプログラムが組まれている。大学で学ぶために必要な力として、まず数学ベーシック(数の取り扱い)がある。この学習では、学友や先輩学生とグループで教え合う学習を通じて、数学の基本的な内容の理解を深め、自分で学習する力を身に付ける。
次に、レポーティングスキル(書く力)。ここでの学習では、いろいろなテーマに沿って自分の考えを文章にまとめる練習や、学友の書いた文章を読みとって意見や感想を述べて考えを深めるのが目的。
最後に、ディベーティングスキル(話す力)である。この学習は、自分の考えをまとめてわかりやすく発表する練習や、身近なテーマについてグループでまとめて発表を行なう。
「フレッシュマンスクール」のプログラム2つ目は「個別指導」である。高校教員経験者のスタッフが、学習相談やそのほかの大学生活の悩みに、誰でも個別対応を行なっている。また、先輩学生が履修や学習の相談にのり、親身になって学生にアドバイスをしている。
一方、教務部および学生部による「多欠席学生・留年者などの面談指導」、さらに臨床心理士による「カウンセリング」も強化している。
【長嶋 絵美】
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