<非回収対象者の物品を押収>
2010年4月の入院費差押え以降も、(株)エイコー・代表取締役・福岡すみ子氏の受難は続いた。8月下旬、国民健康保険などの滞納により、人吉市から自宅が差押えられた。その経緯も八代年金事務所の職員に説明したと、福岡氏は主張する。
そして、10月1日、通告ののち4人の同事務所職員が福岡氏の自宅に入った。目的は、金目の品物を差押えるためである。手続き上、福岡氏とその娘の立会いのもと、ひとつひとつの物品の所有者を確認する。ここで重要なのは、滞納者として回収対象になっている"福岡すみ子氏の品物のみ"が差押えの対象になるということだ。
ところが、この日に差押えられたのは、福岡氏の娘が所有するテレビ(32型)であった。この時の経緯について、八代年季事務所側は「所有権を証明できる領収書、保証書の提示を求めたが、それが無かったため」と説明する。このほか福岡氏の弟の焼酎3本、娘が記念にとっておいた2千円札とバッグが差押えられた。
後日、福岡氏の娘は、自宅から探し出した領収書とテレビを購入した電気店のポイントカードの履歴をFAXで同支所に送信した。しかし、年金事務所側は「名字しか書かれていない」として、証拠不十分と判断。筆者が同支所を訪れた11月2日現在に至っても、娘のテレビは返却されていない。
ただし、同履歴には娘個人が所持する携帯電話の番号が記入されていた。今回のやり取りのなかで、福岡氏はそのことを強調する。それに対して言葉につまる職員。職務怠慢としか言いようのない実態が浮き彫りとなった。
さらに10月13日夜、再び八代年金事務所の職員7人が、福岡氏宅へ立ち入った。前日の12日、事前通告が電話で行なわれたが、その際、福岡氏は再び窮状を訴えていた。
今度は、福岡氏の会社専務が所有するテレビ(50型)とDVDレコーダーが差押えられた。また、捜索前の状態を記録するとして、職員たちは、タンスや引き出しを開放、中身を写真撮影した。この際、娘のタンスも開けられ、なかに入っていた下着を撮られたという。さらに、2回の家宅捜索で、福岡氏が差押えられたのは、家庭用のたこやき器と使い古しの財布だけ。「自分のものならいくらでも持っていってもらって構わない。娘や専務のものは返して欲しい」と、福岡氏は強く訴える。
<変わらない年金職員の体質>
一連の経緯について事実確認をするなかで、八代年金事務所側は、福岡氏の主張を大筋で認めた。福岡氏は、困窮状態にあることを知りながら、「差押え」という強硬手段に出たこと。さらには、年金滞納と関係のない第3者の所有物が取り上げられたこと、処分のなかで娘が恐怖を覚え、いまだ精神的苦痛を感じていることに憤り、同事務所側へ謝罪を求めている。
自宅が行政に差押えられているという実態からして、福岡氏が窮状にあることは容易に察知することができる。にもかかわらず年金機構職員は冷酷な差押えを行なった。現場では、回収対象者ではない娘に対し、結果的に、その下着を撮影してプライバシーを侵害する行為を行なった。現場の人間が、判断基準をすべて組織や制度に預けた結果、生活困窮者に多大なる苦痛を与えてしまったのだ。
年金記録問題で混乱を招いた旧・社会保険庁の体質的問題は、形を変えた今も継承されているのではないだろうか。
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