<需要ある立地は限られている>
福岡都市圏のミニ建売に対しては、根強い需要がある。「ファミリーアパート代は月に7万円以上を払っている。2,400万円の建売ならば、フラット35のローンを利用すればボーナス返済なしの6.5万円払いで済む。それならば購入しようか」とお客は決断するそうだ。国が奨励している『フラット35』ローンを巧妙に活用すれば、住宅を得るのは難しいことではない。『フラット35』ローンのメリットが浸透すれば、購入層は増える。
だが、ここで問題になるのは、「戸建てか、マンションか」でお客が迷うことである。福岡都市圏近郊での一戸建て志向が強いということは、いわばライバルになる関係であるということだ。値段にもよるだろうが、福岡近郊では鉄道駅周辺の便宜な用地でしか、マンションは戸建てに勝負できないのではないか!!福岡都心部においても同様であろう。
都市高速環状線が、来春1月にほぼ貫通する。交通の便は格段に向上する。そうなると、マンション売り出し区域は、この都市高速環状線内ということになるであろう。まさしく、いかに限定されたエリア内でマンション適応地を同業者に先んじて確保するかが、死活問題になってくる。
<こだわりに特化 しぶとく手堅い経営者群>
四重苦の経営環境のなかで、経営者の気質も大きくチェンジしてきた。まず、生き残り戦略をかいつまんでレポートしてみる。
(1)アイランド(代表:亀頭隆行氏、本社:中央区舞鶴)は、「炭を活かした健康住宅の提供」という経営理念を高らかに掲げている(マンションにも戸建てにも炭を利用する)。それと同時に、「経営は人材造り」を明確に謳っている。こだわりにこだわり抜いて、差別化戦略の金字塔を打ち立てようとしているのだ。同社は異色のポジションを固めるだろう。
(2)アライアンス(代表:中垣昌康氏、本社:中央区白金)は、販売代理からスタートした。企業を維持するためには、貪欲に日銭稼ぎも行なった。人材のスカウトで、金融機関の支援体制も築けた。今からが本格的なマンション事業主としての正念場である。中垣社長が営業の最前線の陣頭指揮を執る。1物件40戸を、年間3~4件売り出すことを目標にしている。その規模であれば、販売消化可能と踏んでいるのだ。「あくまでも慎重に」を言い聞かせている。
(3)グランディア(代表:伊勢田直氏、本社:中央区大名)は、丸美倒産の後始末に振り回された。処理を終えたときには、周囲はリーマン・ショックで真っ暗闇。伊勢田社長は「前途を悲観して、社員たちがバラバラになる」と読んでいたのだが、10人が残ってくれた。営業のプロ集団だ。同社長は感動した。「ヨッシャー!!この仲間たちと生きていこう。月額1,000万円の粗利を稼ぎ出せば、どうにかなる」と、販売代理などで食いしのいだ。伊勢田社長は、「営業力で不動産以外の新事業を立ち上げた。今後のマンション事業は、確実に完売できるというときだけしかチャレンジしない」と語る。
そのほかにも数多くの経営者を取材したが、誌面の都合で省略する。一昔前の先輩たちは、親分肌で豪快であった。経営手法は「勘と度胸」のドンブリ勘定であった。
現在の経営者たちの特性は、まずは強(したた)かであることだ。昔の先輩たちの「勘と度胸」で勝負しても儲からない、潰れるリスクがある。一つひとつのチャンスを確実にものにしていく、強かさとしぶとさがないと企業は守れない。そして、粘り強く責任感に溢れている。頼もしい。
ただ、この業界も独立精神が消滅した。紹介した3社の経営者は30歳代で独立した。この世界に身をあずけた以上、誰でもが「一国一城の主」になることを志していた。安定を望む世相のなかで、勇猛果敢な輩が下克上で犇(ひしめ)いたのである。ところがどうだろう。3社の経営者たちも40歳代になった。その後に続く独立組が、いなくなったのだ。「30歳代で独立が当然」の常識が粉砕されて、マンション業界そのものが沈滞化をたどっていくであろう。
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