＜銀行の画策による社長交代劇＞

　社長就任から３年、新たな局面に遭遇した。財津会長が山本氏を疎みだしたのだ。「ピンチヒッター役として、長男・重美氏が社長に就任するまでのつなぎ役にしか過ぎなかったのだ」と山本氏は振り返る。今こそ潮時だ、と潔く社長を辞した。こうして山本氏は、新たな道へと挑むことになった。
　福岡ではマンションデベロッパーの興隆期を迎えようとしていた。山本氏が本来志していた不動産仲介業を見直すための、新たなビジネス環境が整い始めていた。当時、福岡市内ではマンションが建ちだしていたが、そこには管理という課題が生じていた。管理業務はデベロッパーが嫌々やっているような状況で、下部組織の不採算部門として取り扱われていた。
　そこで、山本氏は不動産管理業もひとつの事業として見なし、現在の事業の基礎をつくり上げた。社名を、東峰住宅の「東」、大進興産の「進」を一文字ずつ取って、さらに管理を示す「ビルサービス」を付けて東進ビルサービスに改めた。九州で初めて、地場のマンション管理会社が誕生した。後のアーサーヒューマネットのルーツだ。
　一方で同じ頃、九州朝日放送（KBC）とウキコが住宅リフォームへの参入を目論でいた。相談を受けた山本氏はKBCとウキコから資金提供を受け、後にアーサーホームとなるKBCウキコホームセンターを82年に設立した。ウキコはもともと戸建であったため、戸建て開発とリフォーム事業を強く望まれるも、山本はこれからの時代はマンション需要が拡大することを確信。反対を押し切ってマンション開発へと進み、地場マンション業界を占率70％以上に押し上げるとともに自社も常にベスト５に入る躍進を遂げ事業として成功を収めた。
　当時の山本氏は、もともと事業を子息に承継させようとは考えていなかった。しかし、佐賀銀行主導下での社長承継劇が進行していった。銀行は山本氏の長男を社長に据え、山本氏の指導力弱体化を図り、思うがままにコントロールしようと画策していた。
　銀行の立ち回りによって混乱が生じている最中の03年晩夏、資産内容を調査した監査法人から約80億円の不良資産を指摘されていたアーサーホームは、企業再生に向けた私的整理ガイドラインに基づき、債務減額の要請をすることが決定した。営業部門と健全債権はアーサーヒューマネットに継がれ、責任を負わせるかたちで山本親子の２人は同社から排除された。指揮官を失った同社は結局、09年２月に特別清算を申請する途を辿った。

＜天神プレイス売却　仲介手数料をめぐる訴訟＞

　アークエステートの代表として、最近大きな仕事を成し遂げた。それが、大型複合施設「天神プレイス」のやずやへの売却仲介だ。地場デベロッパーであるアーム・レポの代表・田中浩和氏の、「何とかしてこの土地（現在地）を福岡都心のオアシスにしたい」という想いから、「天神プレイス」が誕生した。
　しかし、不動産不況も相まって当初の売却予定先だったファンドに売れなくなり、進退極まった田中氏は、08年11月頃に山本氏に会社の将来を託した。奇しくも、山本氏は過去に当該地を保有していた東峰住宅産業の代表を務めていたこともあり（実際に土地を購入したのは、山本氏が代表を退いた後の会長と社長）、山本氏自身も「不思議な縁だ」と回顧するほどの出来事だった。
　かなり実現困難な依頼に思えたが、山本氏はやずやに買い取りを打診。売買価格の調整などを行ない、09年７月頃までに売買価格を約44億円とすることで合意した。しかし、ここで同施設を施工した大成建設などの思惑から、本来受け取るはずだったアーム・レポからの売買仲介手数料6,300万円が受け取れなくなり、訴訟へと発展した。「地場の中小企業だからといって、大企業にバカにされている。この状況を私が許してしまっては、今後同じような仕事をするほかの企業が困ることになる」という想いが山本氏を突き動かした。
　山本氏が歩んできた波乱万丈の人生を、その一端ながら振り返ってみた。そこには、少ない誌面では語りきれないほどのドラマがある。そういう運命のもとに生まれたのだろう。訴訟の行方いかんでは、また新たな歴史を福岡の不動産業界に刻むことになる。

【大根田　康介】

COMPANY　INFORMATION
アークエステート（株）
代　表：山本　博久
所在地：福岡市博多区博多駅前3-19-14
設　立：1950年８月
資本金：2,000万円

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