先日開かれたG20やAPECなど一連の国際会議における様々な議題のなかで、「自国通貨の安値誘導」が関心を集めました。アメリカを代表する一部の国が自国通貨を安くさせることによって、世界情勢に動揺を与えているような気がします。そして、そのことへの反発や不安の声があがる度に、事の重大性や深刻さをしみじみと考えさせられます。
今回の「通貨安キャンペーンのスポンサー」であるアメリカは、「混乱」と縁が深い国です。歴史が浅いにもかかわらず、世界ナンバー・ワンに成長したきっかけとなったのは、2回の世界大戦です。世界大戦があったこそ、今日のアメリカが生まれたとも言えるかもしれません。戦争のサプライヤーにとっては、史上最大の「受注」でした。世界が混乱するなか、自国の急成長を成し遂げることができるという面で、アメリカに匹敵する国がないと確信しています。それもアメリカのすごさとして認めなければいけません。
しかし、もう肉体的な力で勝負する時代ではありません。今日のアメリカの強みは何でしょうか。「自動車」、「機械製造」、「日用品」、「電化製品」などのフィールドでは、日本、ドイツ、中国などの国々の製品がよく見られます。
一方、ウォール街が世界の金融センターといこうことには異議を唱える人はいないでしょう。ただし、金融はある意味、マネーの管理であり、世界のマネーを管理する中枢役は、恐ろしい威力も備えています。
<ドル安の背景>
一昨年の金融危機以来、アメリカはその打開策として米ドル紙幣をより大量に印刷し、ドルを安値誘導し続けてきています。
今回の金融危機が学者の間でよく「1929年の世界大恐慌」と比べられています。2009年と1929年の共通点は「アメリカ経済の負債とGDPの比率」です。1929年、アメリカの総負債額はGDPの3倍になったのに対し、2009年は4倍になりました。いずれにしても、国民経済が重い負債に圧迫され、あえいでいます。
2008年にアメリカの総負債額は、57万億ドルに上りました。そのなかには104万億ドルの医療や社会保障などの隠れ負債が含まれていません。2年前(06年)の48万億ドルから2年間で、9万億ドルも負債が増加しているのです。同期間中、GDPは13.1から14.2万億ドルに、比較にならないほどの微成長を実現しています。債務の伸び率はGDPの約8倍です。
アメリカは、国債発行などいろんな金融ツールを利用して、上述の負債を世界の国々に売る体制を組み立てています。日本、中国、欧州諸国も相次いで主要な債権者になっています。こうした状況下で、「債務だらけ」のアメリカにとっては、ドルが安くなればなるほど、実質の債務軽減になるとともに自国の経済振興につながることは明白です。ある学者の試算では、2006年から2009年までの期間中、ドル安による債権の実質的な損失は、中国だけで5,000億米ドルに達しています。
(つづく)
【劉 剛(りゅう ごう)氏 略歴】
1973年12月生まれ。中国上海出身。上海の大学を経て、96年に地元の人材派遣会社に入社。10年3月より福岡に常駐。趣味は読書。
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