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大倉マンの青春・世界放浪記(3)~出国前夜、棍棒とヘルメット
経済小説
2010年11月22日 12:00

 学生時代、御厨は何があっても、「ジェット・ストリーム」放送時はラジオの前にいて、番組の最後に流れる「ミスター・ロンリー」を聞き、1日が終わったという安堵感を抱いていた。自分の気持ちを抑え切れなくなった御厨は、本格的に日本脱出計画を立てる。しかし、最大のネックは資金。当時は外国に行くためにはとても航空運賃が高く、円もドル、ポンドなどの主要通貨と比較すると弱かった。とにかく、お金を貯めないといけない。一方、普通のアルバイトでは間に合わない。そこで御厨が始めたのは、日本警備保障(現在のセコム)の深夜アルバイトであった。
御厨が配属されたのは、日本橋にあった三和銀行ビルの深夜警備。バイト時間は、午後6時頃から午前9時まで、仮眠は3時間 であった。

 ビルの一角に詰所があり、常時3人ほど常駐。カギを数十個持って、ひとりひとり交代で1時間ごとにビルの各階を見まわりする。深夜の見まわりは本当に怖かった。インチキもできない。各フロアーには隅のほうにBOXが置いてあり、各フロアー用のカギを入れ、見まわったという確認のため差し込みまわすのである。見まわるときは、防御のため常備している棍棒を手に持ち、用心しながら見まわりするのだが、実のところ時々ネズミがたてる物音にでも心臓が止まるような思いをしていた。
 一方で、このバイトで色々と面白い人物たちとの出会いがあった。その筆頭は、刑務所から出所したA氏。時々、刑務所内の話をしてもらい、「犯罪はするなよ」と諭されたりもした。御厨が20歳くらいで一番若かったせいもあるが、皆に大変可愛がられたという。刑務所帰りのA氏も御厨にとっては本当に優しかった。

 また、ある御厨の先輩は外国に行くために必死でお金を貯めていたため、私がアパート代を払わなくて済むようにと、日本を出るまでうちに来いと言われた。早速甘えて、アパートを引き払い、先輩のところに転がり込んだ。
 ある日、部屋に白いヘルメットがあったので見ると、大きな字で「中核」と書いてあった。先輩は中核派の活動家だったのである。学生運動のピークを過ぎた時代であったが、まだ運動自体は消えていない世相であった。ただ先輩は、私を一度も運動に誘うこともなく、たまにそれらしき活動家数名がアパートに来られることがあったが、私を巻き込ませたくないという配慮もあったせいか、外で打ち合わせを行なっていた。一方、たまに傷を負って帰られることもあった。「警察とでも衝突されたのかなぁ」という思いで、心配したことを御厨は覚えている。ただ、先輩は、何ひとつそういうときでも説明しなかった。御厨は、日本を出るまで本当に面倒みてもらい、羽田にも見送りに来てもらった先輩に、今でも感謝の気持ちを忘れていないという。

(つづく)

【文・構成:山下 康太】

<プロフィール>
御厨 幸弘 (みくりや ゆきひろ)御厨 幸弘 (みくりや ゆきひろ)
1952年9月4日佐賀県生まれ。71年、佐賀県立佐賀北高校卒。77年、東京経済大学経営学部を卒業し、大倉商事(株)へ入社。数々の海外駐在勤務を経験する。93年、同社を退社し、(株)岩田屋の子会社にあたるiDSトレーディング(株)へ入社。95年、同社を退社し、96年、(株)ミックコーポレーションを設立。現在に至る。


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