全体的に客が減る選挙シーズン(福岡市長選)が終わり、若干の賑わいを取り戻した中洲へ。もっとも、かつての繁栄には遠くおよばないが。入った飲み屋で新市長の印象を聞いてみたところ、「あの番組の時間帯は寝ているから・・・」という声がもっぱら。抜群の知名度も夜の人たちにはイマイチのようだ。"先輩の踏襲"とまでいったらやり過ぎだが、新市長もほどほどに中洲で顔を売っていかねばならない。
一方、中洲ではあまり顔を売ってはいけない人たちもいる。派遣コンパニオンだ。細かいところは派遣会社によって違うと思うが、客からもらった名刺を店に置いておかなければならないというルールがある。派遣先は日によって変わることがほとんど。つまり、客が他の店に流れないようにするための決まりごとである。
最近はやたらと派遣コンパニオンと接する機会が増えてきた。ひと昔前なら、知らない顔を見ると「ママ、あの子は新人ちゃん?」なんて聞くのだが、今時分、新人を入れるほど余裕のある店は少ない。むしろ、その逆で従業員のリストラが進んでいる店のほうが多いのだ。だから、初顔がいると「きょうは早くから派遣を呼んでいるな。団体客でも来るのだろうか」と、考えるのが当たり前になってきた。
一方で、店のほうは「きょう来たばかりの新人なんですよ」と、見栄を張ることもある。それはそれで訪れる度に新人が入退店を繰り返している店もどうかと思うが・・・。
その日、初めて見た顔も派遣だった。話が弾み、話題は昼間の仕事の話に。聞けば、その派遣の子は、昼間、会社の経営をやっているという。「それにしても経営者が、夜の中洲でバイトするとは。よっぽど経営状況が悪いのか。社員の給料を出すために昼夜働くとは殊勝な人もいるものだ」と、思った小生。あまりその話には触れないでおこうかと正直思った。気まずい空気が流れる。
それを察知したのか、「私、会社でいつも顔がきつくて怖いって言われると。そいけん、中洲の接客を学んで、修行しようと思っとるとですよ」と、その娘が釘を刺した。
それはそれでまた殊勝な心がけである。私見だが、接客術を学ぶには西日本最大の歓楽街・中洲ほどうってつけの場所はない。経営者のみならず、女性社員のかたも積極的に学びに行ってみてはどうだろう。
長丘 萬月(ながおか まんげつ) 1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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