<粛清の恐怖を利用した 権力の基盤固め>
一方、朝鮮人民軍の内部では、「社会主義労働青年同盟(社労青)」を中心とする人脈が力を増している。社労青は朝鮮労働党の青年前衛組織で、組織員の数は労働党員(推定で300万人以上)を上回る500万人。現在、金日成社会主義青年同盟(青年同盟)に名称が変更された社労青は、90年代に張成沢(チャン・ソンテク)氏が委員長だった当時、次世代を担うエリートたちを輩出する組織として生まれ変わった。
主な社労青出身者としては、崔竜海(チェ・リョンヘ)氏が挙げられる。咸鏡北道の党責任秘書(道知事に相当)を務めてきたが、今回の党代表者会を通じて党政治局候補委員秘書と党中央軍事委員に昇進した。張成沢氏を始め、社労青を通じて経歴を積んできたことから、「社労青4人組」とも呼ばれている。
一方、脱北者団体「NK知識人連帯」によると、北朝鮮は11月に入り恩氏の主導で幹部らに対する大規模な不正調査を進めているという。
「氏も金総書記のように、政権獲得初期に"血の粛清"を行ない、権力の基盤を固めようとする可能性がある」(統一部関係者)という分析も出ている。
同連帯は、北朝鮮内部の消息筋の話を引用し、「11月5日から1週間、咸鏡北道の党組織部と検閲委員会が茂山郡を集中的に検閲し、党・保安機関などの幹部15人以上を脱北の黙認や賄賂などの疑いで摘発した」と発表した。逮捕された幹部らは、国境の軍部隊や保安機関を総括する組織に所属しているケースが多いという。
金総書記は表舞台に登場して以降、危機に直面するたびに、「粛正の恐怖」を利用して内部を統制してきた。最高司令官就任(91年)翌年の92年10月には、体制批判の疑いで旧ソ連留学派の将校約20人を粛正した。金日成主席死去(94年)直後の95年4月には、咸鏡北道に駐屯していた第6軍団の不審な動きを摘発し、数百人の軍人を処刑した。住民100万人以上が餓死した97年、徐寛熙(ソ・グァンヒ)農業秘書を「米帝のスパイ」として平壌市民の前で公開銃殺した。今年3月、デノミ失敗の責任を負わせ、朴南基(パク・ナムギ)党計画財政部長を銃殺したのも「金氏ファミリー」が行なっている粛正に当たる。
<韓国政府の政策は事実上の失敗に>
このような状況のなかで、北朝鮮は「3回目の核実験」「軽水炉建設」という2枚の核カードを同時にちらつかせている。北朝鮮が過去2回の核実験を行なった咸鏡北道吉州郡豊渓里で新たな坑道を掘るなど、核実験を準備しているものとみられる。11月初め、北朝鮮を訪問したジャック・プリチャード韓米経済研究所(KEI)所長は16日、ワシントンで記者会見を行ない、「寧辺で会った北朝鮮の関係者が、100メガワット規模の軽水炉(発電所)を建設中だと言っていた」と述べた。
このような北朝鮮側の動向は、過去10年間にわたって行なわれた韓国政府の「太陽政策」が、事実上の失敗に終わったことを明確に示すものだ。
17日に発表された韓国政府の「統一白書」は、第1章の冒頭で「過去10年における南北関係は、外形的な成長にもかかわらず、北朝鮮が依然として核開発を続けていることから、北朝鮮に対する失望と安全保障に対する国民の懸念は、逆に高まっている」「過去に巨額の支援や交流協力が行なわれたにもかかわらず、北朝鮮の経済難は解決されておらず、住民の生活もまったく改善していない」と指摘した。
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。07年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。
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