国内の中小企業を取り巻く金融環境の厳しさは、日に日に増していっている状態である。今回、各方面にてご活躍中の4名の方々に、座談会というかたちで金融行政のあり方について討論していただいた。現在の金融行政および金融機関に対する提言や厳しい意見などが多数出され、業界環境の問題点を鋭く突くものとなった。
―総じて、財務内容中心の審査体制になっているということですね。これは、金融機関、金融庁の自己査定マニュアルの弊害が出ている部分だと思われますが。
青木 リレバンはそもそも、与信先と金融機関の距離を縮めて、そこから得られた情報量を最大化し、情報の非対称性を最小化することを求めたモデルであったと思います。05年あたりでリレバンがしきりに叫ばれていたと思いますが、企業の格付のシステムそのものが変わったわけではありません。金融機関が、システムに財務内容を落とし込む際に、企業の成長性や経営者の評価というものが数値化されているものではなく、企業の成長性や経営者自身の評価といった定性的側面は、担当者の主観に頼らざるを得ない部分になっています。そして、それが企業のスコアリング向上、つまり格付値の向上に反映されているのかというと、まったくそのようなことはありません。都銀では一般的な手法となったトラバンは、審査コストの観点から見れば圧倒的なアドバンテージを有します。地方金融機関が標榜するわけにはいきませんが、実際の審査プロセスにおける合理化の一環として、トラバンに近いスコアリングモデルを導入しているという、構造的ジレンマを抱えていることは事実ですね。
数字を入力さえすれば、みな一律の評価ができる―その結果、ビジネスモデルや事業の本質を評価できる銀行員が少なくなったということは、非常に問題だと思います。一方で、融資担当者として「審査レベルを画一化しなければならない」という金融機関サイドの人材育成上の問題も、一定の理解はできますが、審査担当者によって「企業の評価にムラが出る」というのも、それはそれで問題ですからね。
A氏 「金融検査マニュアルの弊害」というものは、言われて久しいですね。それを現場の銀行員はよく理解はしていますよ。「経営者の声に耳を傾けなくてはならない」、「現場に赴いて自分の目で見なくてはならない」―それをわかってはいるのだけど、できていません。
それは客観的に見ると、事務に忙殺されていることが最大の理由だと思います。しかし、それを批判するだけではなく、こちら側―経営者サイドからのアピールやアプローチ不足も往々にしてあると思われます。四半期ごとに金融機関に出向き、説明・報告をするということを行なうだけでも、信頼関係はかなり深まると思います。
金融機関はけっして顧客情報をないがしろにしているわけではなく、むしろ知りたいと思っています。そこに対する、企業側からのアプローチを行なう必要性はあると思います。
―融資申し込みのときに初めて資金繰り表を出す企業と、常に資金繰り表の提出がなされている企業とで、金融機関の対応が相異することは十分にあり得ることですよね。
青木 昔の銀行員というのは、企業を知る努力を行なっていたと思います。今は企業側から知ってもらう努力を行なわないと、興味さえ持ってくれないということは事実ですね。
しかし、金融機関のモニタリング行為の一環としても、与信先企業のビジネス自体を知るという努力義務は、昨今の景況感からしても、必要だと思います。
西田 行政施策として、地銀はトラバンをやっている都銀に比べてモニタリングをしっかりとやっており、情報の非対称性はないという前提があります。ですから、地方金融機関にはリレバンをやらせてもうまくいくという思い込みが出てきます。
しかし、一方でトラバンを行なうような政策を打ち出し、一方でリレバンをやれというズレが、中小企業金融の歪みとして現れているように思います。
【文・構成:神田 将秀】
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