市場原理主義のもと、投機の対象として日本の国土の屋台骨である森林や美しい海岸が狙われています。外資が大いに関心を示しているのです。これに対し、大半の日本人は無関心。気がついてみたら資産や国土が多国籍化し、日本という存在さえ消えかかってしまう。そんな未来が来ないよう、何かが起きる前に備えておくべきです。
たとえば韓国に一番近い島・対馬。対馬竹敷地区の港湾周辺の3,000坪が、島民名義で韓国資本に買収されました。現在は韓国資本が100%出資するリゾートホテルになっています。隣接地は海上自衛隊対馬防備本部。当地区は国境の重要港湾でもあります。これらの買収により、港湾の出入りが常時監視されることを懸念する識者もいます。
島民としてみれば、買い手がつくから売りに出す。仕事がない対馬で生き延びるために山林を切り売りしたり、島を離れる際に所有する不動産を手放したりする。これらはごく自然な経済行為です。過疎化して日本人が減る一方、韓国人の居住者が増え、売りに出された不動産を所有していく。外国人による不動産の占有が、ごく自然な経済活動によって進んでいるのです。
外国資本は日本の森林にも触手を伸ばしています。埼玉県西部の有名林業地では、2005年頃から地元の山に関心を示す外資の話が出てきました。大手商社マンは、主に中国から「一山全部買いたい。いい林地があったら売ってほしい」という要望があることを地元森林関係者に伝えたといいます。
一方、2008年初夏、東京の貿易関係者が長野県天龍村を訪れました。木材が伐採できるかどうかの現地訪問でした。「億単位の資金を出せる富裕層が中国には多い。いつ買収話があってもおかしくない」と紹介し、坪単価100円~150円の当地を流域ごとまとめて買えるのであれば、一坪500円~1,000円でも購入するだろうと語ったそうです。
大量の木材資源の需要は各地にあります。長野県南木曽町の木材業者に、名古屋市貿易商社の中国人社長が、木曽檜が20万m3、最低でも10万m3ほしい、ともちかけられました。桁が2つも違う数字を持ち出されて、木材業界は反応できなかったといいます。鳥取県や岡山県の中国山地でも、同じような話があります。
なぜ、森林買収が活発になってきていたのか。直接的には森林(林地+立木)がいま不当に安いからです。林地も立木も底値だと考えられています。もうひとつの動機は「水」です。明らかに、木材とは関連のない山林原野の場合、狙いは水資源ではないかと考えるのが自然です。
世界の水需要は逼迫しています。中国や日本ではペットボトルの水に対する需要が急速に伸びており、特に中国では1997~2004年の間に需要が4倍となり、年間消費量は26億ガロン(98億リットル)に達しています。世界の需要がタイトになっていく中、各国の水源地を確保しようという動きが活発化しているのです。
森林は日本人にとって重要な水源です。災害防備などさまざまな公益的機能をもつ国の基本インフラでもあります。国土・水資源保全のためには、長期的な国益に視点に立ったルール作りが必要です。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。
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