経営法律事務所北斗 代表弁護士 田畠 光一 氏
最近、とくに中小企業にかかわる労働審判事件が増加している。福岡地裁では、労働審判がすでに120件以上申し立てられており、このペースだと年間140~150件ほどの事件数になると予想されている。労務管理問題は、事業規模や業種などに関係なく、企業に降りかかる問題である。労務管理問題を専門とする、経営法律事務所北斗の代表弁護士・田畠氏にアドバイスをいただいた。
<増える労働審判事件>
先日、私があるクライアントから相談を受けた労働審判事件は、120後半の事件番号が付いていました。事件番号とは、裁判所ごと、事件ごとに付けられる通し番号で、毎年1月からスタートします。つまり、福岡地裁では労働審判がすでに120件以上申し立てられていることになり、このペースだと年間で140~150件くらいの事件数になりそうです。1カ月あたり約10件前後という数が多いか少ないかは、労働事件についてはほかの紛争解決手続きもある関係上、一概には言えないところですが、私の皮膚感覚としてはかなり増えてきているように思います。
景気動向が相変わらず良くならないことに加え、消費者金融に対する過払い訴訟も一段落した感じです。次なる案件として労働審判を考えている、大規模な法律事務所もあるようです。そのため、今までは裁判所に持ち込まれなかった案件が、事件になっているのかもしれません。また、最近は社労士さんが労働者側に付いて、労働審判などのアドバイスをしていると聞くことが多くなりました。時代は変わっていきますね。
使用者側にとっては、いつそのような問題が自分の身に降りかかるかわからない状態ですから、就業規則をきちんと整備したうえで、残業管理をしっかりするなど防衛策をとっておかないと、大変な目に遭いかねません。早めに、弁護士や社労士などの専門家へ相談しておくことをお勧めします。
<「休職」か「解雇」か>
今回は、従業員の休職について述べたいと思います。
昨今、精神的な疾患を抱える方が増えているようです。そのあたりのケアの重要性は、「メンタルヘルス」というキーワードでよく聞かれるトピックスですから、ご存じの方も多いかもしれません。「うつ病」や、そこまでは至らなくても「うつ状態」という状況になれば、職場での業務もままならず、職場環境にも影響をおよぼします。そうなると、会社としては何らかの手を打たなければなりません。
そのためには、まず原因を突き止めなければなりません。その原因が業務上からきたものか、そうでないかによって、会社の対応としては大きく異なってくるからです。
まず、その症状が業務に起因するということが明らかであれば、これは皆さんもよくご存じの「労災」に該当するものです。したがって、各種手続きに沿って、労災として対応していかなければなりません。
しかし、これがプライベートな問題に起因するものであれば、労災とは関係ないものとして、「ひとまず休職させるかどうか」という話になります。
骨折などの外傷性の傷病であれば、業務上起因かどうかわかりますが、精神的な傷病については、まずそこの判断がなかなか難しいという問題があります。そのため、会社としては指定医による診断を受けさせるなどして、原因の把握に努めなければなりません。
今回は、例として業務上起因ではない場合を対象とした話をします。原則的には、給与の対価となる労働の提供をできない状態になっているわけですから、即解雇という考えもあり得ます。しかしながら、現実には解雇法理の存在もあり、多くの企業では就業規則において「休職」についての規定を定め、その要件に沿って対応しているようです。多くの企業では、長期欠勤が一定期間続いた場合に「休職」処分とし、休職期間内に治癒などによって職場復帰できなければ、「解雇」としているようです。
ちなみに、休職期間を30日以下にしてしまっては、解雇予告期間より短い期間で解雇できてしまうことになり認められませんので、ご注意ください。
<プロフィール>
田畠 光一(たばた こういち)
1998年、九州工業大学情報工学部機械システム工学科卒業後、「(株)日立製作所九州支社」に入社。05年10月、弁護士開業。「不二法律事務所」に入所。08年9月、九州大学ビジネススクールにてMBA(経営学修士)取得。10年4月、「経営法律事務所北斗」開業。
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