時に、店の要望とミスマッチの状況で送り込まれ、あわただしくなった店内で店スタッフから冷ややかな視線の十字砲火を浴びる派遣コンパニオン(以下、「派遣」)。味方の援護なく突撃しなければならない状況は、旧帝国陸軍の「バンザイ突撃」に匹敵するとは言い過ぎか。ともかく、リストラの危機にさらされている正規コンパニオンとは、違った苦労がある。
苦労のひとつは、接客する相手がほぼ初対面になるということだ。以前にも書いたが、「派遣」は名刺、電話番号、メルアドの交換を禁止される場合が多い。次の派遣先に客が流れたら困るからだ。特に、忙しい時にしか派遣を呼ばない店にとっては、新規顧客獲得のチャンスをつぶされたら死活問題。「やり取りの現場を見つかり、後で受け取った名刺を没収され、携帯のメモリーも消去されるといったケースもあります」(前稿登場のA嬢)という。
客のほうは気に入ったからこそ連絡先を教えるのだが、その後、音信不通になるのは、よっぽど嫌われているか、相手が「派遣」だったということだ。精神衛生上、後者のケースと考えたほうがいいだろう。一方、「派遣」にとっては、相手がいつも初対面で次につながらないとなれば、接客に身が入らなくなる。どんなに頑張っても自分のリピーターにはならないのだ。一応、「一期一会」の精神で臨む、"プロ"の「派遣」も少なくはないが。
店側も1回限りの助っ人が、客に気に入られすぎると困りもの。「お客さんから『この前、入っていた新人ちゃん。今度いつ来るの?』と聞かれると正直、答えにつまります」とは某スナック店長。「手を抜かれても困るけど頑張られても困る」とは、店側のジレンマ。一方で「派遣」は、「文句を言われない程度に...」となる。
いくら客といっても相手は異性。ひと目ぼれして恋に落ちることもある。「少し前、派遣先で見かけた人がどうしても忘れられなくて夢に出てきます。となりに座ったけど、連絡先を交換することもできず、下の名前しか知らない。その店に呼ばれたときに、たまたま飲みに来ていればいいけど。友だちに連れられて来ていたようだったし...」と、A嬢は憂うつな面持ちで語る。
もっとも店によっては「派遣」と客の連絡のやり取りについて、容認しているところもある。別の派遣先に客を呼んでもOKというところもある。その代わり、そうした店は、「派遣」からの評判がよく、派遣された場合は接客に身が入るそうだ。
コンパニオンには楽しく働いてもらうのが客にとってもベスト。いつも音信不通では、中洲全体のイメージダウンにもつながるだろう。お店側は、ある程度の規制緩和を考慮してはいかがだろうか。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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