デフレが止まらない理由のひとつに労働賃金の低下があります。国税庁の民間給与実態統計調査では2009年の平均年収は406万円と前年比で23万7,000円も減少しています。しかも年収が300万円以下の人が4割、100万円以下の人たちが1割近くいるのです。しかもこの傾向は常に下方に向かっています。
しかし、国際的にみれば日本の賃金はまだまだ高賃金なのです。ですから製造業は日本の高賃金では国際競争に勝てないという考えで2000年頃に盛んだった生産拠点の海外への移転がまた復活しているのです。10億円以上の大手企業の投資額が前年比でわずか6.8%増なのに対して製造業では44%増、自動車も44%増、電気機械に至っては55.5%も増加して海外投資をしているのです。この設備投資の稼動が本格化されると工場の海外移転の後に残されるのは失業者と廃墟になった工場跡なのです。
米国のサブプライムローンの破たんと同様に怖いのは住宅ローンの返済です。毎年20兆円以上の住宅ローンが組まれているのですが今は以前と違ってキャピタルゲーンの増加は見込めないのです。しかも長期的にみれば人口は減って行きますし給料はこれまでのように上がるとは限りません。かつて失敗したステップローンさながらのフラット35Sなど金融支援策を打ち出して購入の後押しをしていますからさしあたって住宅はよく売れています。借家住まいで永久に家賃を払い続けるよりも、毎月家賃並みの支払いでボーナス時に少し多めに返済するだけでマイホームが持てるという、甘い誘いにのって実力以上の買い物をしてしまうケースが多いのです。
日本の住宅ローンの返済は、米国のノンリコースローンとは違って途中でローンの返済出来なくなればローンの残額を総て返済しなければならないのです。ローンの返済方法は、元利均等返済方式で行なう場合がほとんどですから、この返済方法で返済すると返済期間が長いほど返済額に対しての元金の返済額の部分は少ないのです。その結果、住宅を売ってもまだ山ほどの借金が残ってしまうことになります。ローンで支払っているうちは専用使用が出来るだけで実際には所有していないのと同じだということに気づいていないのです。返済に行き詰まった人たちは家を失うだけではなく保証人にも多大な迷惑をかけてしまいます。新規の住宅購入はかつて人口100人に対して一軒だったのですが少し巻き返しているとはいえピーク時に比べれば、2011年は2割近く減ると思います。
懸念材料はまだ他にもあります。中小企業の金融円滑化法です。昔から企業は赤字でも潰れないが資金繰りが出来なくなったらたとえ黒字でも倒産すると言われてきました。1990年代は毎年20兆円前後のお金が貸し剥がしと貸し渋りのために多くの企業が行き詰まり外資を中心に売却されたり、破たんしてしまいました。その教訓から2009年11月に貸付条件の変更などに努めることを目的とした法案が時限立法で決められています。この法案の成立のおかげでほとんどの企業が無審査状態でリスケが可能になり2010年は生き延びています。この法案のおかげで生き返った企業も多数あります。しかし、ただ延命した企業もたくさんあってこれらの企業の実態は更に悪化しています。これが2011年に悪い材料となって顕在化する恐れもあるのです。
そのほか中国への輸出増加の大幅な減も気になる要素です。直近の半年の下落は年換算で20%近く落ち込んでいます。これは尖閣諸島問題以前からのトレンドです。日本はデフレで悩んでいますが輸出の56%を占めるアジア諸国はインフレと景気引き締め状態にあります。つまりどこを向いても2011年は厳しい環境下にあるということです。そのことを念頭において今、大切なことは何かということをしっかりと捉えたうえでそれを実行するうえでこれまで正しかったことと、これまで得をしたことをどれだけ捨てられるかと言う勇気を示すことが必要です。いままで正しかったことはルールや規制、固定観念です。そして今まで得したこととは既得権です。
辛卯の年にちなんで平成維新のきっかけがつくれる年にしたいものです。
【高塚 猛】
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