上水道は、水道給水区域の拡大と下水道の普及などで水使用量が急増し、各地に断水をもたらしたことから、多目的ダムに積極的に参加し水需要量を確保した。でも、国民皆水道となりバブルが弾けると、節水型機器(便器、洗濯機など)の普及や節水意識の高揚によって、近年、ひとり当たりの水使用量は減り、水道料金の値上げにつながるダム開発に尻込みするようになった。木曽川水系徳山ダムでは、2000年に名古屋市等が新規水利権量を半分から3分の2も返上したことで、ダム計画は大きく変更された。
灌漑(かんがい)用水の場合、農業用水は慣行水利権として認められているため、ダムを築造する時、新規水利権を得る者が農業用水の不足分をダム容量として確保(不特定用水という)し、農家の負担はない。しかし、農家が土地改良事業などを行ない、ダムに新規灌漑用水を確保する必要がある時には、農家はダム負担をしなければならない。今では、平均就労年齢65歳の農業従事者は、土地改良事業の維持費さえ払う余裕が無くなり、ダム事業から撤退するケースが多くなっている。川辺川ダムも、そのひとつである。
このように、近年、各利水者は多額の投資を必要とするダム建設に、従前のような積極的な参加を望める状況になく、自らの経営の遣り繰りに苦慮している。
利水者が参加するダムは多目的ダムの場合が多く、その費用負担は分離費用身替り妥当支出法で公平に割り当てられる。利水者が支払うダム負担額は、一部が国費で、その半分以上が受益者負担(水道の場合、水道料金)であるため、長期財政計画を議会などに計ってダム建設参加を決める。多額のダム負担に応じるには、一定規模以上の都市しか出来ない。
でも、米国などでは、ダムは国家の責任で建設され、その維持管理費のみを利水者が負担している。米国カリフォルニア州北部のダム群は、南へ714kmの導水路建設によって、セントラルバレーの砂漠を世界最大の穀倉地に変え、ロサンゼルス市などへ上水を送水している。また、現在試験湛水中の中国・三峡ダム(貯水量は393億トン)は、100万人の住民を遷して、長江の洪水を防ぎ、1,820万kwの発電を行ない、「南水北調」によって1,300km先の北京まで水を運ぶことを可能にしている。
わが国のダムの総貯水量は218億トンで、三峡ダムの半分の量しか貯まらない。我が国のダム貯水量が少ないのは、国土が狭いこともあるが、河川は急じゅんで短く、ダム容量を多く採れないこと、狭隘(きょうあい)な谷間に強固で不透水な岩盤を有するダムサイトが少なくダム候補地が限定されているなどに依る。さらに、水没者の生活再建のための同意、ダム下流の慣行水利権者、内水面漁業者、海面漁業者などの了解が必要なため、調査着手からダム完成までに多年月を要し、多額の費用負担を伴うことになる。
【作者略歴】
藤井 利治(ふじい としはる) 1944年(昭和19年)9月生まれ。九州大学工学部卒業。福岡市入庁後、福岡地区水道企業団理事、下水道局長、土木局長、水道事業管理者、福岡アジア都市研究所副理事長などを歴任する。2001年、渇水と節水をテーマにした論文で、福岡市職員では初となる工学博士号を取得。著書に『水を嵩(かさ)む』(文芸社刊)がある。
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