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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (17)
経済小説
2010年12月26日 08:00

平成20年3月「上場会社が決済遅延なんて」

<大分ホテル>

 同じ頃、大分市内で開発したビジネスホテルの問題が顕在化しつつあった。
 このホテルは某ホテルファンドからの委託により、当社が土地を購入し、建物を竣工させた後、約15億円で売却する予定であった。すでに契約も締結され、何ら問題なく3月末には決済が完了するものと考えられていた。
 ところが、このホテルファンドが物件に瑕疵があるとのいいがかりをつけ、決済準備に入ることを断ってきた。
通常、不動産を売買し決済するためには... 通常、不動産を売買し決済するためには、各種の書類を整えて、銀行の店頭で資金移動を行ない、それを相互確認したうえで司法書士が所有権移転登記に走る、というやり方をとる。このため決済が近づくと、その段取りを打ち合わせするのが不動産売買の常である。ところが、ホテルファンドは、この決済打ち合わせをもう2カ月間先延ばしにしているのである。

 先の仙台の既存ビルの場合は、最悪少し値段を下げれば決済できる状況にあった。しかし、大分のこのホテルの場合は、決済の打ち合わせに入れないのである。これは、ホテルファンド側が、まったく購入資金の目処を立てていないことを示している。しかし、一方では、手付金・違約金の条項こそないものの、しっかりした売買契約書は締結されていた。そのため、DKホールディングスがこのホテルを他社に売却することを意図して下手に動くと違約条項に抵触するリスクもあった。

 しかもホテルファンド側は、すでに約1億6,000万円を投じて、ホテルの開業後に必要になる什器・備品などもすでに発注していた。ホテルの什器は通常、専用デザインの専用仕様であり、もし、ホテルファンドが物件を決済できない場合は、これらも宙に浮いてしまうことになる。この状況を前に、営業責任者であるX取締役も、黒田社長に相談せざるを得なかった。

 「今回は断念し他社に売る」。
 多少のリスクはあるが、もはやホテルファンドによる決済は無理と判断し、急遽、親密な顧客に資料を持ち込み、買ってもらうこととしたのである。これが平成20年3月上旬のことである。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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