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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (18)
経済小説
2010年12月27日 10:49

例年、1棟や2棟、売りに困る物件が現れるが... 毎年あるいは隔年でビルを買ってくれる親密な顧客をDKホールディングスは何社も持っていた。例年、1棟や2棟、売りに困る物件が現れるが、そういう物件はいつも、このような優良顧客に持っていって、売り切ってきたのである。そのほとんどにはサブリースを付けてである。

 このような優良顧客は、営業系の各役員で分担しており、早速商談に向かった。そのなかで、黒田社長が自ら商談した中央のマンション分譲会社と、X取締役が担当する東京の倉庫会社が売却先候補として浮上した。

 東京のマンション分譲会社は、売上規模数千億円の上場会社だった。たぶん即座に断りたかったのだろうが、親しい経営者どうしの直接折衝ということで、断りづらかったのであろう、上場会社としては通常受け入れ難い条件を提示してきた。手形決済である。つまり現金での決済ができず、現金3割、手形7割となる。金額でいえば現金4億5,000万円、手形10億5,000万円である。

 夜9時過ぎに黒田社長から電話がかかってきた。
 「この分譲会社からの条件で何とか売上が計上できないか、山陽監査法人と打ち合わせしてくれんね」。
 「不動産の手形決済は、原則は無理ですが、何か考えてみます」。

 先に、不動産を売却する場合は現金と引換が原則であり、売掛金が残るようなことは原則認められなかった。現金の代わりに手形を受け取った場合は、実質的には売掛金と同じであり、やはり売上を計上できなかった。しかし、20年3月期の業績を達成するには、この物件は必ず3月中に売上を計上しなければならなかった。しかも、先述の仙台のビルも売上減額が発生するリスクがある。これらが重なれば、減益決算となってしまう。それまで増益を続けてきたDKホールディングスとしては、それは何としても避けたいことであった。

 何としても、手形でこの物件を売却し、その売上計上を山陽監査法人に認めてもらうことが必要になった。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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