小さな成功と失敗にこだわるな
大人げない大人で逆境時代を生き抜け
30代と言えば、人生のなかでも飛躍が期待できる年代だ。しかし、今の混迷した日本で生き抜くことは容易ではないし、大きな不安に駆られている世代でもある。そんな逆境時代を乗り切るために、「30代は大人過ぎる。大人げない大人になれ」と警鐘を鳴らすのが、元マイクロソフト(株)日本法人社長で現㈱インスパイア取締役ファウンダーの成毛眞氏だ。読書を通じた人間形成、そして読書家の目から見た今後の日本の出版・メディアのあり方などについて、話を聞いた。
<今の30代はすっかり大人に>
―日本で「Windows95」が大ヒットしたころ、成毛さんはマイクロソフト日本法人の社長でした。この時代に何か学んだことはありますか。
成毛 しょせんはいち支社長ですから、経営者として学んだことはありません。資金調達も、資金繰りも考えたことはありませんでしたから。そこが堀江貴文なんかとは違うところです。
ビル・ゲイツから学んだことも何もありません。彼は1,000万人とか1億人に1人の天才で、たった5万円の資本金を70兆円にした人ですから。何かを学ぼうと思うと、こちらの頭がおかしくなってしまいます。普通の人が、孫正義に学ぶことは何もないでしょう。偉人から学ぶというのは、愚か者がやることです。まともなゴルフをする人は石川遼のマネはしませんし、リトルリーグの子どもがイチローのマネもしませんから。
―最近、『大人げない大人になれ』という御著書を出されていますが、「童心」とはまた違うのでしょうか。
成毛 子どものままでいる才能というよりは、生まれ持った性質があって、ずっと大人になれない大人がいるのです。最近では、ノーベル物理学賞をとった益川敏英教授などがそうで、アインシュタインもそうです。地頭力が高いまま子どものような大人であれば問題ないのですが、そうでない大人はダメです。某元法務大臣なんかがそうで、東大を出てIQは高いかもしれませんですが、地頭力がない人もいます。
とは言え、背伸びして大人になる必要もありません。でも、一家全員が安定した公務員とか、家系的に大人になってしまう人もいます。そうなると好奇心をなくしてしまいます。そういう人たちは努力しないと、すぐ大人になって脳が固くなってしまって、発想の柔軟性がなくなり成功しないでしょう。
―私は30歳ですが、ちょうど我々の世代は子どもから大人になる端境期だと思います。
成毛 今の30代というのは恵まれていませんよね。逆に20歳プラスマイナス5歳くらいの範囲の年代が恵まれていると思います。石川遼とか斎藤佑樹とか、ああいう人たちって特定の年代で固まって出てきますよね。ベンチャーという観点からみると、20年後にこの年代のなかから孫正義さんみたいな経営者が出てくるでしょう。
でも、今の30代では難しいかな。すっかり大人になってしまったからです。今の20代前後の方が子どもです。話し方は大人かもしれませんが、脳の構造自体は子どもだと思います。ゴルフ少年、野球少年のまま30代になるでしょうね。そのうえの今の30代は子どもっぽくない大人が多いのです。当社の社員も皆そうです。マイクロソフト時代もそうでしたが、ある日突然、大人になってしまいます。団塊の世代は大人が多くて、その次の世代は子どもが多いと思います。
【大根田 康介】
<プロフィール>
成毛 眞(なるけ まこと)
1955年北海道札幌市生まれ。北海道札幌西高等学校を経て、1979年中央大学商学部卒業。アスキーなどを経て86年にマイクロソフト(株)入社。91年より同社代表取締役社長。2000年に退社後、同年5月に投資コンサルティング会社(株)インスパイアを設立し、代表取締役社長に就任。08年より同社取締役ファウンダーに就任。現在、スルガ銀行(株)、(株)スクウェア・エニックス・ホールディングスの社外取締役や、さまざまなベンチャー企業の取締役・顧問などを兼職。早稲田大学客員教授も務める。『大人げない大人になれ!』(ダイヤモンド社)、『本は10冊同時に読め!』(三笠書房)、『成毛式実践マーケティング塾』(日本経済新聞社)など、著作・連載多数。
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