毎年恒例の"お寒い"クリスマス―。寒いのは気温でなく、集客状況であることは言うまでもない。さびしい、もとい気ままな独り身の小生としては、見栄を張らず、今年も聖夜を中洲で過ごす運びとなった。
店のドアの前に立つと、中からにぎやかな声が聞こえてきた。去年、静まり返った店内で男性店長とシャンパンを酌み交わし、1990年代のJ-POPを歌いまくった思い出。それが繰り返されることはなさそうだった。いや、それ以上の、後にトラウマになりそうな状況が待ち構えていた。
ドアを開けると、6人座れるカウンター席がぎっしり。一方、10人は座れるボックス席には客がふたり。一見、繁盛しているようだが、ボックスを見る限り"例年通り"という状況だ。カウンターは、ひとりかふたり連れの常連さんで、午後10時前にして、かなりアルコールが入っている雰囲気。マイクを回して、代わるがわるカラオケを歌っていた。
その店もなぜか、この日に限って女の子を5人投入、ママも早い時間から参戦。「ヒマが当たり前」と言われる日に無謀な勝負に打って出たのか。しかし、聖夜出勤の女の子たちは士気が高く、店の雰囲気を異様なまでに盛り上げていた。
しかしながら、気になったのはオヤジたちの選曲だ。それぞれが歌うのは世に言う「クリスマス・ソング」。それも女性歌手の歌までオヤジ連が裏声をしぼり出して歌うわけである。シラフじゃ、居合わせたくない状況だ。
「ほら、長丘さんも歌わんね」。カラオケのリモコンがカウンターの右から流れてきた。お店からのサービスでグラスに注がれたシャンパンをぐいっと飲み干し、自分のレパートリーのなかからクリスマス・ソングを思い起こす。しかし、これまでの人生で、クリスマスに全然いい思い出のない小生のレパートリーには、存在していないことが判明した。
緊急回避措置として、とりあえず冬ソングを選曲する。歌詞とともにモニターに映し出された銀世界の風景、雪玉を投げ合ってはしゃぎ回る恋人たち。「おっ雪か、よかね。白か、白か!」と、となりのオヤジ。みな手拍子を始め、さらに大合唱へと発展した。もはや「何でもいい」段階になっていたのだ。このオヤジ連について行くには飲みが足りない。小生は急ピッチで飲みまくった。
何曲歌ったかは、分からない。気がつけば、小生がカウンターでひとり、マイクを握って熱唱していた。オヤジ連はみな泥酔し、フラフラの足取りでひとり、またひとりと店を出ていった。それぞれ家庭があってもおかしくない年代だった。"赤い顔のトナカイ"として、サンタさんからのプレゼントをわが子に届ける人もいたのだろうか。とにかく、店にいた数時間だけは、楽しく過ごせたはずである。
こういうクリスマスも悪くない。
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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