<定量的・定性的に 課題の構成要素は変化>
―今後の適応型モデルというのは、基本的にはエリア特性にあった店舗を展開されるということですか。
安部 むしろ、さまざまな状況に応じて用途を使い分けていくということです。3年レンジでの活動テーマは、たとえば1店舗平均の売上、アベレージを落として、過剰調整を行なうことを目標としています。それ自体はデフレ要因となりますが、経営体質を改善するためには必要な課題であり、このことは業界全体が認識しておくべき点でもあります。
80年の倒産以降、1店当たり年商1億円、利益はミニマム10%以上、投資は年商の半分以下の5,000万円未満で、資本の回転率は2回点以上。これを吉野家のビジネスモデルのひとつにしてきました。全体で営業利益率15%以上、経常利益16~17%をジェネラルな構造としてつくりあげ、それをハードのマインドとしての常識感を30年間続けてきたわけです。
月商830万円、年商1億円というモデルでは、損益分岐点が約600万円になります。これを300万円ほどの水準にしないといけません。したがって、400万円の月商で5%の利益を稼ぎ出すというのが目標値です。その実験店としての1号店を繁華街型のビルインに出店し、2号店を立地特性の違う郊外に出しました。
実験店舗の用途としては、千数百店のスタンダードにするというのではなく、既存店のスクラップ対象の店を継続するためのモデルにしたいと考えております。加えて、吉野家のビジネスポテンシャルの低い地域、たとえば東北地域など、店舗展開が手薄な地域に出店できるモデルフォーマットです。新業態をうまく確立できれば、今の倍の店舗数を出していける余地はあると考えています。
今の消費環境からすれば、低い売上でも成立するモデルをつくって準備しておく必要があります、かつては、どこに出しても1億円以上のアベレージを出す時期が長く続きましたが、BSE問題を契機に経営環境が大きく変わりました。とりわけ2010年、競業他社の値下げによって受けたダメージは、吉野家にとって創業以来の経験でした。
このことは、単にお客さまというマーケットに相対しておけば良かったという時代から、競合他社の戦略とそれによる影響にどう対応するのかということを意識する必要性が出てきたということです。今後、モデルフォーマットを構築していくうえで、配慮しなければならない新たな要素だと認識しています。定量的にも定性的にも、経営課題の構成要素は大きく変わっているのです。
【文・構成:吉村 敏】
<プロフィール>
安部 修仁(あべ しゅうじ)
1949年福岡県生まれ。福岡県立香椎工業高校卒業後、プロのミュージシャンを目指し上京。音楽活動のかたわら、(株)吉野家でアルバイトとして勤務。その後、正社員として同社入社。77年、九州地区本部長を務め、80年の同社倒産後、83年に取締役として経営に参画。88年常務取締役、92年代表取締役社長に就任。07年グループ改組、10年4月より現職。主な著書として、東京大学・伊藤元重教授との共著『吉野家の経済学』(日経ビジネス人文庫)などがある。
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