小さな成功と失敗にこだわるな
大人げない大人で逆境時代を生き抜け
<「運鈍根」の「鈍」が重要 本質は科学から学ぶ>
―今の30代の経営者について、何か感じることはありますか。
成毛 ビジネス上では若手経営者の企業にはほとんど投資していませんから、何とも言えません。若いのが良いとか悪いとかではなく、投資先に設定しているのが技術の蓄積が必要な業種ですから、結果的に年配の経営者が多くなります。投資について言えば、実は1回失敗して再びチャレンジしている人の方が、投資価値としては高いケースがあります。というのも、本当においしいチャンスが出てきたときに、1回しか事業を経験していない人にはそれを見つけられませんから。
投資というのは、100万円が500万円になっただけでは何の意味もなく、1億円とか5億円とかにならないとダメです。そうなると、最初の1発目の事業がそのままうまくいく可能性はほぼありませんから、2発目の本当においしい事業が出てきたときに見極められる経営者かどうかを見ます。
マイクロソフトだって、最初はベーシックをつくっていたのですがパッとしませんでした。その次の事業もうまくいかず、最後に「Windows95」が出てから急に業績が伸びました。でも、それまでに15年かかっています。うまくいくまでにはいくつもの偶然が重なりますから、そこでビジネスチャンスを見逃さないようにしないといけません。
また、昔からサラリーマンの成功の条件は「運鈍根」(運と鈍感と根性)だと言われています。自分のときも含めた全時代の30代について言えることですが、この年代は小さな成功や小さな失敗について非常に敏感です。だから、小さな成功でも満足し、小さな失敗でも落ち込みます。それではダメなのですが、30代は小さなことに一喜一憂してしまう年代です。
―いわゆる「鈍感力」が必要ということですね。
成毛 私は「鈍」が重要な要素だと思います。それにはやはり、本をたくさん読むことが必要です。「ノアの洪水は本当に起こったのか」といった壮大な地球史などを読んでいたら、感覚が鈍くなって「自分は本当に小さいな」と思うようになります。そうなると、小さな成功には満足しなくなりますから、チャンスが来たときにそれを掴める可能性も高くなります。
最初の小さな成功に満足しないためにも、「自分のやっていることは大したことないな」「たかが知れているな」と思えるようになることが大事です。孫正義さんに学ぶことは何もないけど、先輩から学ぶと知恵が浅い。結局は、どこに目標を置くかということです。
そうなるためには、やはり本質的には科学だと思います。たとえば、黒海という海はもともと淡水でしたが、ヤンガードライアス期という氷河期があって、日本の何倍も大きな淡水湖になりました。それがどんどん干上がって、巨大な地底湖となり、それがあるときトルコの海峡のところで決壊してすさまじい洪水が起こります。
その付近に住んでいた人々の8割以上が亡くなって、残りは船に乗って生き残りましたが、3カ所に分断されました。それがメソポタミア文明、エジプト文明、ヨーロッパの蛮族に分かれた、という仮説があります。その文明があった各地に洪水伝説があったのは、実は皆がそれを体験していたからなのです――。
といったようなことを延々と読み終わった後、よほどアホな人でない限り「自分って小さいな」と感じるはずです。ちょっとだけビジネスで成功しても、「どうでもいいことだな」と思うようになります。そうした読書が良いのです。ちまちましたのはダメ。テレビならNHKの「プロフェッショナル」のような、絵画修復師など手が届きそうもない人たちが出てくる番組を見た方が良いです。「カンブリア宮殿」などはダメです。すぐに手が届きそうな人たちが多いから。「自分の方がマシだ」と思うようなのは、見ても意味がないです。
【大根田 康介】
<プロフィール>
成毛 眞(なるけ まこと)
1955年北海道札幌市生まれ。北海道札幌西高等学校を経て、1979年中央大学商学部卒業。アスキーなどを経て86年にマイクロソフト(株)入社。91年より同社代表取締役社長。2000年に退社後、同年5月に投資コンサルティング会社(株)インスパイアを設立し、代表取締役社長に就任。08年より同社取締役ファウンダーに就任。現在、スルガ銀行(株)、(株)スクウェア・エニックス・ホールディングスの社外取締役や、さまざまなベンチャー企業の取締役・顧問などを兼職。早稲田大学客員教授も務める。『大人げない大人になれ!』(ダイヤモンド社)、『本は10冊同時に読め!』(三笠書房)、『成毛式実践マーケティング塾』(日本経済新聞社)など、著作・連載多数。
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