小さな成功と失敗にこだわるな
大人げない大人で逆境時代を生き抜け
<読書は脳の構造を変える 価値ある情報の宝庫>
―成毛さんはたくさんの本を読まれているようですが、最近のドラッカー本の流行についてはどのように感じていらっしゃいますか。
成毛 たしかに、かなり多くの人に読まれているようですね。私はたくさん読んでいるから今さらという気もしますが、あれは本を読んだことのない人たちが、ドラッカーだけを読んで驚いているのだと思います。ドラッカーはたしかに優れていますが、もっと読むべき本はたくさんあるのではないかと思います。
―読者は何を求めて読んでいるとお考えですか。
成毛 もちろん、ドラッカー自体は読むだけの価値があります。彼はもともとアメリカの自動車会社であるGEのコンサルタントでしたが、話がまったく科学的ではなく、その時代には向こうでは受けませんでした。一方で、日本人は無知で科学的なことをまったく理解できないし、そうした教育も受けていません。そこでドラッカーの非科学的な論理が日本の非科学的な経営にピッタリ合って、多くの経営者に読まれるようになりました。時代の流れにも合っていたし、彼の未来を見る目はすごく優れていたと思います。
あれほどまで飛躍した非科学的な経営でも大丈夫なのかと、日本の経営者は感じたと思います。でも本当は、その前にもっと科学的、論理的な手法を学んだ方が良いと思います。つまり仮説を立てて、それを検証するというプロセスを踏むことです。
とは言え、本を読んだからといって、すぐに何か行動に移すようなことできません。それができるのは、せいぜいオレオレ詐欺のマニュアルとかそういった類のものです。それよりは、100冊、1,000冊と読んでいくことで脳の構造が変わり、知識を集積し、その結果として本が役立つわけです。
何か1冊読めばすぐに行動に移せるような仕事は、まったく知的労働ではないわけです。ドラッカーを1 冊読めば済むような仕事であれば、逆説的にドラッカーの本は何の役にも立たないでしょう。それよりも、自然科学や歴史などを500~600冊読んだところで脳の構造が変わり、知識が集積でき、推論を立てる能力、仮説を検証する能力が身に付くと思います。だから、とにかくたくさん読むしかありません。
―ところで、成毛さんにとって価値ある情報はどのように仕入れていますか。
成毛 私の情報はほとんど本からですよ。まともな情報を持っている一般人は少ないと思います。そうでない人はいっぱい知っており、面白いから良いと思いますが、本当に良い情報を持っている年配の人はバイアスがかかっています。また、若い人は大した情報を持っていない。40代の突出した人たちで、この人の情報は価値があると感じる人は、私は10人くらいしか知りません。それなら本を読んだ方が良いのです。
【大根田 康介】
<プロフィール>
成毛 眞(なるけ まこと)
1955年北海道札幌市生まれ。北海道札幌西高等学校を経て、1979年中央大学商学部卒業。アスキーなどを経て86年にマイクロソフト(株)入社。91年より同社代表取締役社長。2000年に退社後、同年5月に投資コンサルティング会社(株)インスパイアを設立し、代表取締役社長に就任。08年より同社取締役ファウンダーに就任。現在、スルガ銀行(株)、(株)スクウェア・エニックス・ホールディングスの社外取締役や、さまざまなベンチャー企業の取締役・顧問などを兼職。早稲田大学客員教授も務める。『大人げない大人になれ!』(ダイヤモンド社)、『本は10冊同時に読め!』(三笠書房)、『成毛式実践マーケティング塾』(日本経済新聞社)など、著作・連載多数。
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