先日、親子三代でママ稼業を営む藤堂和子さんの話を聞いた。10年10月5日、東京の帝国ホテルで開かれた「中洲通信30周年記念パーティー」では、全国各地から約2,200人の人が集まった。「中洲通信」は藤堂ママが編集長となって発行してきた雑誌であり、10年1月以降休刊していたが、来年(11年)からは年4回発行の季刊誌になる予定である。
藤堂ママが先代から受け継いだ老舗・航空スタンド「リンドバーグ」(第4ラインビル3階)は、不況知らずで連日にぎわっている。同じビルの7階で藤堂ママが切り盛りする高級クラブ「ロイヤルボックス」は日を問わず、多くの予約が入る盛況ぶりだ。「自分がしっかりしていれば、100人のスタッフは守ることができる」とする藤堂ママは、中洲の活性化について、それぞれの店がまず、"自分の城を守ること"が大事だという。
「人を覚えることが金になる」をはじめとする藤堂ママの言葉には、現状に活路を見出すための知恵がある。中洲で長くやっているママは必ずと言っていいほど、名刺をくれた客に直筆のお礼状を送る。人と人のつながりが大事な商売だからこそ、それは当たり前のことだと皆、口をそろえる。携帯電話やメールによるコミュニケーション、すなわちデジタル化された情報では伝わらないものがある。
今の中洲でさんざん飲み歩いて、接客業の本質をおさえている店がやはり生き残っているということを確認した。そして年末、人件費を削り、派遣コンパニオンに依存していた店の数軒が、新たに正従業員や専属のバイトを雇い、反転攻勢に出ていた。一方、MLHグループの土屋社長のように、接客サービスだけではない教養面での人材教育で格安料金ながらも接客の質を高めようとする経営者もいる。
今年の中洲を漢字一字で表すと、「兆(きざし)」ではなかろうか。底なし沼と言ってもいい状況で、肩まで浸かりながらも生き抜いている店は、過去の経験から活路「中洲ならでは」を見出した。来年は静から動へ、中洲活性化へ向けて動き始める1年になりそうだ。
最近、「中洲」は、「なかす」と読まれることが多いが、古くからの中洲っ子には「なかず」と発音する人もいる。「方言で濁った」とする説もある。このふたつの読み方を、当て字で「鳴かず」、「鳴かす」とするならば、来年は縁起を担いで「中洲は(閑古鳥が)鳴かず」の意味を込め「なかず」と発音していきたい。
小生の連載は2009年の年末から始まった「年末中洲バトルロワイヤル」がはじまり。そこで好評を博し、年が明けてからも「中洲バトルロワイヤル2010」として続けることができた。読者と中洲の飲み屋のおかげである。「萬月さんはよかね~。中洲で飲むとが仕事になりよっちゃけん」と、よく言われる。しかしながら、原稿代よりも飲み代が高くつくことがしばしば。来年は「萬月も鳴かず」といきたいところである。
<作者プロフィール>
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。ツイッターID:mangetsu55(酒が入るとつぶやきます)
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