国内の中小企業を取り巻く金融環境の厳しさは、日に日に増していっている状態である。今回、各方面にてご活躍中の4名の方々に、座談会というかたちで金融行政のあり方について討論していただいた。現在の金融行政および金融機関に対する提言や厳しい意見などが多数出され、業界環境の問題点を鋭く突くものとなった。
<円滑化法の功罪>
―では次に、昨年12月に施行されました「中小企業金融円滑化法」(以下、円滑化法)についてお聞きします。来年3月までの時限立法として成立し、最近では少し落ち着いた感がありますが、それでも申し込みは全国で約47万件程度あり、需要の底堅さを感じます。倒産件数が若干減少傾向にあることは評価できると思いますが、その反面、リスケ(貸出条件緩和)を受けた企業の条件が元に戻る時期になると、建て直しができなかった企業の倒産数が再び上昇するのではないかと言われています。
青木 この受入は金融機関にとって努力義務ですが、施行前と何が制度として変わったのかというと、リスケした債権に関しては無条件に「要管理先」という債務者区分に位置付けられていたものが、実現性があり、かつ抜本的な経営改善計画書の提出がなされれば、一つ上のランク「要注意先」に位置付けられるようになりました。
まず、「要管理先」に該当した場合、この債務者区分から引当率が格段に上がります。努力義務とはいえ、金融機関としては無条件に受け入れることはできないわけです。このジレンマを解消するために、「要注意先」として区分できるようになりました。しかし、実質は「要管理先」のまま推移している企業が多い状態です。「要管理先」から追加融資は不可能であることが一般的です。
では、「要注意先」になったからといって追加融資ができるのかというと、リスケ段階で元金の返済が行なわれていないわけですから、そういう先に対しては銀行の政策的な意図でもない限り無理です。結局、リスケを受けた企業というのは、追加融資を受けることができないのが一般的です。
この結果、返済を開始した際に、倒産する企業が多く出るのではないかとの危惧を持っています。つまり、「実現性が高く且つ抜本的な経営改善計画書」の策定の主体が金融機関であったり、経営者自身が策定したとしても、外部機関などのモニタリングが行なわれない。本来的には金融機関にモニタリング義務がありますし、そもそも「中小企業金融円滑化法」は、リレバンがすでに機能しているという前提のもとに施行されています。預り資産手数料の獲得ノルマに手一杯な銀行員に、リスケ先の高度なモニタリングや、コンサルティング機能の発揮など、物理的に無理だと考えます。
西田 私も同感ですね。企業延命の時間稼ぎ以外の何者でもないと思います。9月決算を上方修正する金融機関が相次ぎましたが、これは返済猶予期間中だけの特典のようなものです。この状態が当然続くわけはなく、副作用としてのぶり返しが非常に怖いですね。
A氏 私のまわりではあまり聞かない話なので、「意外にリスケ先は多いのだな」という感じがします。しかし、経営者の立場で現在の環境をみると、「利払いのみ、元金返済猶予」では、よほどのことがない限り、経営の抜本的な改善は難しいですね。こういうときこそ、金融機関のコンサルティング能力を発揮すべきではないでしょうか。
経営の中身まで立ち入った経営改善策を、厳しい視点で行なっていく。その時点では辛いものなのかもしれませんが、そうでもしないと、先ほどの話では約47万件のリスケ企業の持つ社会リスクがそこにあり続けるわけですから、非常に怖いですよね。
青木 リスケ企業が経営改善計画書を提出した後に、金融機関が1カ月に1回でもいいから、モニタリングをしっかりやっておけば、ここまでの深刻さは浮かび上がってこなかったのではないかと思います。もっとも現場レベルでは、銀行の決算上方修正が相次ぐなかで、現時点で切羽詰まった「深刻さ」を感じてはいないのでしょうが。
「要管理先」から「要注意先」に上位遷移した元本返済猶予中の企業の返済が開始されると、資金ショートを起こす企業は数多いと思います。その際、「要管理先」からの破綻と「要注意先」からの破綻では、金融機関の与信ポートフォリオ構成上の観点からも、当該債務者区分における債権全体に対するデフォルト率の引上げは、銀行決算に多大な影響をおよぼします。結果、銀行の自己資本問題が再び顕在化し、マクロ経済に大きなインパクトを及ぼすと懸念しています。リスケ期間中に、返済開始に耐え得るだけの収益力・CFを賄えた企業が、一体どれほどあるでしょうか。
西田 リレバンはしっかりとできているということを前提として、今回の制度設計がなされていることが問題だと思います。リレバンと称しながらトラバン化している今の金融機関の実態では、この制度システムを遂行していくことは難しい気がします。
井手 円滑化法の目的は経営改善であるにも関わらず、リスケで延命できたことで目的を達したと感じている企業が圧倒的ではないでしょうか。少し先を考えれば、非常に怖い考えですよね。先ほどの金融機関によるコンサルを行なっていく、絶好の機会でもあったのではないかと感じています。
A氏 経営改善計画書について金融機関から、形式的な物ではなく質の高い計画書を作成するアドバイスがあって然るべきではないかと感じます。経営者の多くは、命をかけて経営を行なっていますよ。その想いに少しでも応えてほしいですね。
青木 商工会議所やTKCなどで、計画書の作成指導というものは行なわれていると認識していますが、「今から金融機関に計画書を提出しなくてはいけない」、「今月にでもリスケしなければ資金繰り破綻してしまう」という切羽詰まった状態で、経営コンサルのところへ来られる経営者の方は多いですね。「なぜ、もっと余裕のある段階で着手しなかったのか」というジレンマを感じることは、多々あります。
【文・構成:神田 将秀】
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