<融資を引き出す魔法>
銀行出身の経営コンサルタントとして、クライアント企業の支援は基本的に、融資目的の銀行交渉であることが多い。そのため、巷で出版・販売されている「魔法のように融資を引き出す方法」、「最強の銀行交渉術」などというタイトルの本を見掛けると、同業者として「そのような手法があるのならば、教えて欲しい」という想いで、斜め読みしてみる。
そのような書籍を読んで、しっくりと感じたことは無く、結論から申し上げて、「融資を引き出す魔法」は、この世に存在しない。そのような書籍やウェブサイトを真剣に読むだけ、時間とお金の無駄であることを、先ずは断言しておきたい。
金融機関は通常、債務者に対して「格付」を付与しており、与えられた格付値に従って、「債務者区分」が設定されている。
上位債務者区分から(1)正常先(2)要注意先(3)要管理先(4)破綻懸念先(5)実質破綻先(6)破綻先、と位置付けられており、(1)正常先と(2)要注意先においては、更に細分化されていることが一般的である。
金融機関の格付システムについては次回以降のシリーズで詳細を言及するが、各々格付値により金融機関は、当該債務者の一定のデフォルト率(倒産確率)を算定する。デフォルト率に従って「貸倒引当金」が算出され、銀行決算上の損失として計上される。
つまり当該債権の貸出金利においては、デフォルト率や調達コスト、その他諸経費を加味した上で算出される。各種コスト率を上回る貸出金利で貸出を行わなければ、金融機関が算出する「採算金利」を確保することが出来ず、財務レベルが良好な債務者においても過度な低金利融資は、金融機関からの取組方針に一定の消極的なスタンスが付与されることが一般的である。
つまり、これら各種のシステム・ファクターを、資金調達においてはそのバックグラウンドとして知っておかなければ、「プロ」と呼ぶことは出来ない。声高々に「金利引下げ」を叫ぶコンサルタントや、「金融検査マニュアル」を携えて銀行交渉に臨む専門家などに対して、金融機関はまともに取り合う気を持ってはいない。
「銀行取引における魔法の杖」があるとすれば、それは「転ばぬ先の杖」である。
通常、貸手と借手との間には「情報の非対称性」と呼ばれる問題が生じている。貸手と借手の情報量が同一レベルでは無く、どうしても借手側の方が、自社のビジネス・財務等に関する情報量を多く保有することとなる。その情報量の差異の是正・最小化を、日常よりどれ程努めているのか、という問いに、中小企業のほとんどが「考えたことが無かった」と回答する。
年に一度の決算書のみしか提出せず、各種資料は金融機関より依頼された時のみにしか開示しない。そして資金繰りに窮したら「さあ、貸してくれ」というスタンスでは、金融機関にとって「良いお取引先様」には成り得ない。
好きで堪らない異性に対して注ぐ情熱を、企業経営の現場においては同じレベルで、金融機関にも向けることが、各種の経営戦略の中での「銀行取引戦略」である。
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